第十二章 機械が笑う時 二

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 そして、再び警報が点滅していた。そこで、点滅の位置を探ってみると、俺のいる位置にあった。ここは、上にも下にも講義室があるので、どちらかにいるのかもしれない。  こんなに頻繁に警報が鳴っていたら、迂闊に出歩けない。そっと、満千留に位置を送信してみると、了解の返事が来ていた。  もう面倒なので、範囲を十キロメートルに広げ、全ての点滅を満千留に送信してしまった。 『守人様に×は寄ってきますからね。逃亡していても無意識に近寄ってくる』  そういう谷津も、逃亡中だというのに、俺に通信している。 『×っていうのは、悲しい』  谷津は、自分が生贄になってしまった事を、客観的に分析していた。谷津自身も、いつかは生贄になると思っていたらしい。そこで、×の体系図を書いていた。  まず×が嫌う遺伝子は、特別変異のようなもので、主に俺のような遺伝子であった。志摩が不味いと言っていように、特別変異の遺伝子は不味く感じて取り込めない。  次に、劣性遺伝子に近いものも嫌われている。柴崎でいう四つ足や、羽付きは劣性遺伝子で、これを多く取り込むと、姿を安定して保つ事が難しくなる。  最後に谷津のような、欠損した遺伝子を持つ者も嫌われていた。谷津の指が動かなかったのは、遺伝子が欠損しているせいで、これは喰っても補強できない。そして、欠損遺伝子を取り込むと、完全な遺伝子が痛むとされていた。 『生贄で喰われない限り、俺を喰う×はいないでしょう。でも祭りには裏がある』  やはり、どうしても取り込みたくないという者もいて、それは殺して誤魔化しているという。 『欠損遺伝子を持つ者は、神になれない×です。これは生贄になる』  慧一も神になれない×であった。俺は慧一を連れて逃げたが、谷津の事は考えていなかった。 「ごめん。谷津」  谷津も一緒に逃げたら良かった。そして、俺と契約していれば、生贄にはならなかった。でも、今からでも遅くはないと思い直す。 「俺と契約しようよ。谷津……」  そこで、画面が真っ黒になっていた。  俺と契約すると、処刑済にもなるし、生贄からも逃れられる。俺が死んだら、谷津も死んでしまうことになるが、それでも、今、生贄になるよりも長生きするであろう。  でも、画面は真っ黒のままであった。 「谷津……」  小声で読んでみても、何も反応しなかった。
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