第二章 雪みたいに花みたいに 二

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 損失は出たが、これは商売をしていれば覚悟をしなくてはならないものだ。それでも、多美は気候を読んで、少な目に料理をしていた。  ここで焦って挽回しようとするよりも、確実に仕事をこなした方がいい。 「志摩、モーニングの時間だよ」  電車が止まったせいなのか、カプセルホテルの客が多かった。トレーを用意すると、素早く器をセットしてゆく。始発で帰る人もいるのか、皆、急いでいた。 「ご飯、切れます」  予想よりも宿泊が多かった。次の炊飯は用意してあったが、これでは一般客でご飯が切れる。次の炊飯を開始すると、まだモーニングの列が続いていた。 「こんなに部屋数は、多かったっけ?」 「満室と聞いています」  多美の用意した惣菜も切れそうになっている。そこで、いつもならばパンを出すのだが、今日はパン屋も仕込みが遅かった。昨日の夜に準備が出来なかったらしい。  もうダメかと思ったが、冷凍のうどんがあった事を思い出した。そこで、鴨南蛮うどんと。カレーうどんを作ってみた。 「どうにか、乗り切った……」  予備の食材も必要なのかもしれない。俺は冷蔵庫を確認すると、補充をしておく。  そこでモーニングが終了すると、多美が俺に弁当を持たせてくれた。 「ほら。疲れた顔をしない」  まだ温かいが、何が入っているのであろうか。  俺は、李下がやって来たので店を出ると、大学へと向かった。  大学の講義室の、いつもの席に座ると、五十鈴が走ってやって来た。 「上月、この事件を知っている?」  五十鈴は、地元の出身で、この土地に詳しい。五十鈴に地図を見せられたが、俺には場所が分からなかった。 「これは、どこ?」 「これさ、朱火駅の、上月の住んでいる方の出入り口とは逆の方ね」  逆には、あまり行かないので、道がよく分からない。すると、手書きでも地図を描いてくれた。それは、喫茶店ひまわりから説明されているので、位置関係が分かり易い。 「ここでさ、交通事故があった。ここの医学部の学生が、彼女を送って行った時に、居眠り運転のトラックに突っ込まれた」  それは、昨日、八重樫からも聞いた気がする。 「彼女は死んで、運転手は軽傷だった」
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