第二章 雪みたいに花みたいに 二

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 彼女は車を降りる所であった。それは、そこが彼女の家の前であったからだ。そして、車の音に気がついた彼女の母親は、玄関の電気をつけて挨拶しようとしていた。それは、彼が実家に帰った時に、あれこれ手土産を持ってきてくれたので、礼を言おうとしたのだ。  しかし、次の瞬間、家の前にあった車は消えた。車は衝突により、前方に飛ばされていった。彼女は車から出て飛ばされ、隣家の塀に逆さまになって、背から激突していた。塀には、背を逆側に二つ折りにされた状態で、彼女がいた。 「彼女は、母さん痛い、母さん助けてと泣いていた」  彼女は、その状態で意識があり、即死ではなかった。 「……怖いね……」  救急車が来るまで、人が集まってきては彼女を見ていた。幾人もが、叫んで失神してしまったという。 「乗っていた車は半分潰れていたが、運転手はエアバックのおかげで、軽傷だった。奇跡と言われたけど、あれこれあった」  最初の激突で飛ばされたが、そこでトラックがブレーキを踏んだ事、車のサイドブレーキが引かれておらず、激突の瞬間に前に体重がかかり、車が急発進していた事などがあった。 「急発進……」  急発進だけでは、彼女は飛ばなかっただろう。でも、やや気になる。そこで、再びブレーキが踏まれていたので、運転手は軽傷であった。 「足がブレーキに乗っていなかったのか?」  彼女が降りるまで、ブレーキを踏んでいるだろう。運転手も事故の記憶が曖昧で、真相が分からなかった。 「それでね、その隣の家は、塀を全部入れ替えた」  でも、何度、塀を入れ変えてもその部分に黒い染みが浮かんでくるらしい。そこで、遂に引っ越ししてしまった。 「今も、その時刻になると、激突音がするらしいよ」  そして、彼女の家族も引っ越しをした。 「母さん、母さんと呼び声が聞えるらしい」  そこで、家が売りに出されているが買い手がつかず、空き家になっていた。すると、近隣の家も引っ越しを始めた。 「空き家なのに、歩いている音が聞こえてくるらしい。それもかなり深刻でさ、近隣から不審者がいると、警官に通報が相次いでいてさ、警官がドアを開けたら、ブリッジ姿の女性が廊下を這っていたという」  それでは、ホラーではないのか。 「事故物件になっているよ」 「あの、五十鈴。俺は住居が決まったから、もう、引っ越さない。事故物件はいいの」  そこで、五十鈴が頷いていた。
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