第二章 雪みたいに花みたいに 二

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 定食を持ってきた五十鈴が、俺の弁当を凝視しているので、取り替えてみた。 「いいの?」 「いいよ。俺は、家で食べられるから」  定食も美味しい。それに温かい。 「美味しい!」  五十鈴の叫びに人も寄ってきて、カツサンドは、あっという間に消えてしまっていた。 「定食は返さないよ」 「いいよ。上月、あのサンド、又、持ってきてね」  そこで、五十鈴は、どうして事故の件を俺に教えたのか説明してくれた。 「事故の起きた土地は、又、事故が起きたりするでしょ。上月には、そういう土地に近寄って欲しくないよね。少し、怖がらせようと思ってさ」 「そうだよね。俺も思うよ」  それと、五十鈴は居酒屋でバイトをしているが、あれこれ噂を聞くのだそうだ。喫茶店ひまわりの噂もあり、内容はともかく、何故か皆に定食屋と呼ばれているらしい。 「居酒屋もさ、コンビニの事件で客が少なくなって、店員が次々と辞めてゆく」  やはり、系列として一緒なので、殺人事件と重ねて見られてしまう。 「それに俺の両親もさ、居酒屋を辞めてと言ってきた。何か不安なんだって」  そこで、修行も兼ねて大手チェーン店の薬局でバイトをしろと言われているらしい。五十鈴も、半ば面接に行こうとしていた。  人の、何となく不安であるという感情は、どうにもならない。大事な跡取り息子で、変な人がいるかもしれないバイトをさせたくないのだろう。 「……親の言う事も確かだよね」  親の方が長く生きているので、様々な失敗を見ている。親の言いなりで、失敗しない人生をしてきた者は潰しがきかないが、忠告を無視するというのも勿体ない。 「そうだよね……転職するか……」  そこで、紹介されたという薬局を聞くと、八重樫のアパートの近くであった。確かに商店街に、チェーン店の薬局があった。
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