第三章 雪みたいに花みたいに 三

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 あちこちの商店街が寂れてゆくなかで、この商店街は活気がある。商店街を抜けた先には、マンション群があり、住宅街もある。それに、車の大型駐車場もあり、ここは通勤、通学路の通路として使用されていた。ここの駐車場は、日中は通勤の車が置かれ、夜は、付近の会社の社用車が置かれる。ここの社用車は早朝から使用する事が多かったので、入れ替えに成功していた。お陰で、契約すると駐車料金が安いのだ。  駅前から歩き、薬局を探すとすぐに見つかった。狭いが、店頭にまで品物が並び、若い店員が接客していた。風邪薬など身近ですぐに欲しい用品が、簡単に購入できるので便利であろう。営業時間も、普通の店舗と比べ長く、七時から夜の十時までとなっていた。  夜の営業は、若い女性では厳しいだろう。  薬局を出るとすぐに、八重樫のアパートが見えていた。惣菜店の裏側にあり、日中は駐車場が惣菜店の店員のものになる。裏側に入る路地に向かうと、どこか周囲が暗くなった気がした。  更に進んでみると、青い車が見え、その横に佇む黒い影が見えた。車の助手席の横で、影が立って何かを待っている。  この影は男性だった筈だが、どことなく華奢で長い髪をしていた。 「夢の生き物?」 「いいえ、悪夢なのです。私が好きだと言うと、皆、夢から醒めたように、気持ち悪いとか、近寄るなとか……罵倒するのです」  それで女性の姿になってはみたが、やはりどこか違っていたという。完全な女性まで、まだ遠いのだと、改造マニアになっていった。そして、気がつくと、周囲には誰もいなくなった。 「もっと、もっと女性にならないと……」  血の涙が見えていた。誰も、この人のありのままを見ようとしなかったのであろうか。でも、この魂は傷ついてしまい、深い闇となってしまった。  車に宿ってしまった闇は、八重樫の闇に反応して活性化し、かつ闇を吸収し実体化しつつあった。闇ならば、光で消す事ができるのかと、車に手をついてみると、車全体が闇で出来ていた。  この車は人を惹きつけ、そして破滅させてゆく。この車自体が闇で、人は闇に接触し続けると、苦しさを覚える。村の住人は慣れているが、一般の人では発作に似た苦しさを覚えながらも、中毒のように欲する。 「花みたいに綺麗で、散る姿は雪のように冷たい」
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