第三章 雪みたいに花みたいに 三

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 そこで、俺は大慈をポケットから出すと、机の上に乗せ、ノートを出した。 「大慈、メモを頼む」 「はい!」  大慈は、胎児のミイラだが、エンピツを杖のようにして立ち上がると、必死にメモを取っていた。しかも、言葉から画像も読み取るようで、似顔絵なども描いている。 「すごいね……」 「大慈はすごいよ、おかげで、俺の成績も上がっている」  八重樫が、自分の所に来ないかと、大慈をスカウトしていた。 「大慈。八重樫がうるさかったら、怒っていいからね」  そこで、俺は再度聞き込みを始める。赤羽の誕生日から計算すると、今年で二十八歳であった。影の名前は、洲崎 朝陽(すさき あさひ)だったという。洲崎は生きていれば、赤羽と同じ二十八歳であるが、二十六歳の時に殺されていた。 「二年前に殺されたのか……」  この車が発売されて五年になる。こんなに短期間で、幾人が死んでいるのであろう。一人の持ち主に、半年あたりしか滞在していないのではないのか。  洲崎はアルバイト先で、赤羽と出会った。話してみると気が合い、又、同じ大学と分かった。そこで、社会人になっても、時折会っては一緒に飲んでいた。だが、洲崎が会社と折り合いがつかなくなった頃に、赤羽は洲崎を抱いてしまい、洲崎は別の世界へと入ってしまった。 「夜の蝶ね」  そこで、洲崎は幾人もの男性を経て、本当の恋に目覚める。 「え?本当の恋?」 「店で働く若い子でね。一生懸命でね……でも、何故働いているのか聞いてみたら、学校に行きたいなんて言うのよ」  もう、自分がこの子を学校に行かせようと、目覚めてしまったらしい。 「私は働いて、その子を学校に行かせた。幸せだった……」  そこで、赤羽が会社を辞めたのでローンが返せないと、家に来ようとしたのだ。洲崎は金を渡して家には来るなと言った。すると、赤羽は幾度も金を借りにきた。  そこで、殺された事件となる。 「借用書とか残っていますよね」 「そうね。残っているけど、どうやって取りに行くの?」  赤羽に貸した金の借用書は、実家の自分の部屋の金庫に入れたらしい。 「金庫があるのですか?」 「兄がいてね、社会人になった記念にプレゼントしてくれたのよ。でも、そんなものは要らないので、実家に置いてきた」  金庫の開け方と、鍵の場所まで教えてくれた。
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