第三章 雪みたいに花みたいに 三

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 車は売ってしまっていて、赤羽が洲崎を殺した証拠は何も残っていない。もしかしたら、洲崎の遺体が見つかれば、何か証拠もあるのかもしれない。でも、山に埋めたという情報だけでは、どうにも探し出せない。 「まず、金庫か……」  どうやって、金庫までたどり着けばいいのであろう。 「今の車の子ね。私が学校に行かせた子に似ているのよね……」 「その人に会ってみませんか?」  そこで、洲崎は首を振っていた。 「あのね、私のような死んだ者が近くに行くとね、死を呼んでしまうのよ……」  死は落とし穴のようで、空間がすっぽりと抜けていたという。そして、自分の死に、他の人が落ちるのを見ていると、その者は死んでいた。 「世の中には流れがあってね、その流れに対して良い事が、良い事なのよね。悪い事は消されてしまう」  洲崎の失踪に泣き、必死に探してくれた少年は、悪い人間に利用され沈められてしまったらしい。 「抽象的な説明で、余計に怖い。死んだと聞くよりも、沈められたのほうが、あれこれ想像して……かなり怖い」  幽霊よりも、幽霊から聞く話の方が怖い。  でも、赤羽に対する恨みと、最後に見た女性の蔑みから、助けられない気持ちは分かった。 「総菜屋の子もね、セイフティーを嫌って生じゃないと出来ない男なんて止めて。自分を大切にして欲しいのよね」  そこは、聞き流す事にする。 「後悔していますか、大切な相手を失ってしまって」  そこで、洲崎が涙を流していた。 「そうね。私はこんな姿で狂っていたから、殺されてもいいけど、あの子は必死で頑張っていた。なのに……」  やはり、海に沈められたのであろうか。沈めるに興味を持ってしまったが、洲崎を教えてくれそうにもない。洲崎は、涙を落していて、その人の名前も言いたくないらしい。  そして、車に戻ると、この車は人の死に幾度も面していて、死に引き寄せられる性質を持っていた。ただ走っているだけでも、事故を呼んでしまう。  そこで、洲崎はこの車を壊して、共に成仏したいと願っていた。 「……それで、更にこの車の怪異が強くなったのですか」  女性に対する嫌悪が、この車からはひしひしと感じる。この車に彼女を乗せたら、何らかの形で別れそうだ。 「洲崎さんは、これだけ実体化してしまっていては、成仏できません。最後に消しましょう」  志摩に食べて貰おう。 「まあ、そうね。成仏よりも、消える方がいいかもね」
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