第三章 雪みたいに花みたいに 三

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 でも、赤羽は許せない気がする。 「上月、頼んでおいて悪いけど、危険な事はしないで欲しい。上月は、守人様で、村にはなくてはならない存在だから」  八重樫は、俺を心配して洲崎を離そうとしていた。 「それに、霊は嘘をつくからね」  思念を持った霊は、自分に協力させるために、嘘をつくという。 「殺された事と、赤羽の件は本当でしょう。でも、元は洲崎さんの車でしょ、これ?」 「八重樫、この世界のルールを知らないの?霊体はね、違いを指摘されると、相手を殺す」   霊体には、この記憶だけが全てなので、否定されると消滅しかねない。故に、否定する者を殺そうとする。  正確な住所、名前も実在していた。でも、住所の番地が存在していなかった。大慈が、慧一に情報を送っていたので、慧一が裏を取っている。慧一の情報を読むと、他に、大きく違う点があった。 「赤羽 研斗さん。二年前に、死んでいます。ひき逃げにあって即死です」  本当は、洲崎は赤羽をひき殺したのだが、記憶が混乱し自分が殺されたと信じているのだ。でもこれが、悪霊なのかもしれない。自分が被害者だと信じ、嘆いている。 「洲崎 朝陽さん、でも貴方は、確かに殺されています。一年前に、同居していた青年に包丁で刺し殺されました」  痴情のもつれなどで決着していたが、そこには沈黙があった。 「……そうよ。肉体関係は必要ないって言って暮らし始めたの。でも、あれね、いい気になって隠れて彼女を作ったのよ」  それは、洲崎にとっては激しい裏切りであった。嫉妬に燃えて、殺したいくらいであった。 「だから、解放してあげたのよ」  自分がかつてそうであったように、男の良さを教えてあげたと、洲崎が笑う。 「私ね、姿はこんなだけど、男なのよ。だから、私が教えてあげたの」  酒を飲ませて動けなくし、自分で一晩中可愛がった後に、幾人もの男性を経験させてみたという。 「殺してやるって、叫んでいたっけ……でも、アンアン善がっていたのよ。私、上手いしね」  一週間、裸のままで男に抱かれる生活をさせた後、金で売り払ってしまった。 「……可愛さ余って、憎さ百倍だったのよね」  これでは殺されても仕方がない。 「鬼畜……」 「それは、褒め言葉ね」  少しでも同情していた自分が悔しい。やはり、言葉だけを信じてはいけない。 「消す」
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