第三章 雪みたいに花みたいに 三

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 志摩にこんなモノを食べさせたくもない。俺は手に光を出すと、洲崎の周囲を走らせる。逃げられなくしたところで、中央に光を落した。  周囲が光に包まれて、洲崎はやがて消えて行った。この車は、事故を呼ぶままであるが、洲崎は綺麗に消えたと思う。 「……上月、晴れなのに雷はまずいからね」  この光の理由を考えていなかった。でも、人目が少なかったせいか、誰も気にしていない。  洲崎の痕跡を確認してみたが、片鱗も残っていない。そこで、一息つこうとしたら、車の横に黒いものが浮かんでいた。 「え……あれで、消せなかったのか?」  そこで、八重樫も車を見ていた。八重樫は、台所の塩を持ってきて、窓の外に撒いていた。塩で済むのならば、俺は光を出さなかった。しかし、地面を見ると、ナメクジが苦しんでいた。もしかして、八重樫は影よりもナメクジが気になっているのではないのか。 「ああいう霊は、憑いたら離れないからさ」  車がある限り、完全には消せないのかもしれない。 「まあ、弱いから、そう影響はないよ」  八重樫にコメントされると、微妙な気分になる。  もしかして、俺は八重樫を馬鹿にしているのであろうか。確かに、八重樫には困らされているが、それでも尊敬していないわけではない。 「八重樫、俺、バイトがあるから帰るね」 「そうか。送ってゆきたいけど、俺も勉強があってさ」  試験に追われていて、余裕がないらしい。俺が立ち上がると、八重樫も立ち上がり、そっとキスしてきた。 「何?」 「俺は頼りないけど……でも、上月を食わしてゆくって決めているからさ。頑張るよ」  いや、キスの意味を知りたいと俺が首を振ると、八重樫が困ったような顔をしていた。 「輝夜とか、守人様とか関係なく。何も無かった俺を、無償で助けてくれたのは、上月だけだった。もう、俺、その時から、メロメロに惚れているし……さ」  俺は助けたりしていない。必死に首を振ったが、八重樫は再びキスをしてから、玄関で手を振っていた。
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