第四章 雪みたいに花みたいに 四

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 黒川は容赦なく、俺のこめかみを指で絞ってから、正座させて反省させていた。俺は、足が痛いが、黒川も怖い。 「小田桐がいる時ならばまだしも、八重樫と上月では、子供の花火みたいなもんだ」 「子供の花火?」  そこで、黒川がイライラしたのかタバコを咥えていた。黒川のタバコは営業用で、家で吸うことはない。だから、相当にイライラしているようだ。 「子供に花火を持たせるとな、危険物という自覚がないから、走って転んで火傷して、人に向けて怪我させて、そのまま投げて火事にしてと忙しい」  どうにも、迷惑な存在らしい。 「……まあ俺も、それでも可愛くて花火を渡すバカ親だけどね」  黒川は、少し目が据わると、俺をじっと見つめてから腕に抱き込んできた。 「無事で良かった」  説教されるよりも、こっちのほうが堪える。  細身に思える黒川も、俺の頭を抱き込む腕はがっしりしている。冷たいようにも見えるが、黒川は温かくて優しい。 「俺も、こっちの世界が長いけどね」  黒川は、村は闇に満ちているが、制御にも慣れているので、そう問題は起きないという。しかし、こちらの世界では、闇が見える人が少ないせいで、野放しで放置され危険な状態になっている場合が多いらしい。 「×は闇を持っていて闇を食べる。こちらの世界にも×はいて、意味も分からず×を狩ってしまい殺人鬼になる」  そもそも、×には本能があり、自分にない遺伝子を狩って喰い、原始の遺伝子と呼ばれるものを目指そうとする。×の子供は、その本能が強くなり、より暴走する。 「人も闇を持っている。無意識に×は闇欲しさに人を狩るけど、人は喰う事ができない」  そして、黒川が困った顔をした。 「人も、こちらの世界も、闇は光が欲しい。光の為に、どんな嘘もつき、闇は無理をする。闇だけではなく、生き物は光が欲しい。守人様を村から出さないようにしているのは、そういう理由もある。守人様が欲しいのは村だけではない」  八重樫も、闇を持っている。そのために、人が周囲に集まってしまう。そこに結界を張ったのは悪くはないが、闇を求める者には障害になる。 「闇は依存性が高く、切れると禁断症状が出る」  こちらの世界も、色々と難しいらしい。俺は、世界というものを、もっと知らなくてはいけない。 「八重樫を守るつもりで、上月は八重樫の危険を増やしたのかもしれない」
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