第四章 雪みたいに花みたいに 四

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 このソフトを使用し続けている者がいて、実際の犯罪をリアルタイムでメンバーに教える。すると、メンバーは競い合って、犯人を追いかけてゆく。  警察に通報するのではなく、ただ追跡し仲間に知らせ監視してゆくのが楽しいらしい。 「今、コンビニ強盗が発生」  すると、皆が接続を始める。コンビニの内部の映像と、音声も流れる。すると、時間を遡ってどこから犯人が来たのか調べる者、付近の車を全て監視するもの、犯人の顔を割り出す者などが情報をあげてくる。そのデータは有料であり、売買対象であった。  犯人は走って逃走し、自転車を盗んだ。この時点で車の情報は消え、付近の地図が表示される。犯人は公園で着替え、駅へと走り込んだ。犯人は、駅のロッカーに荷物を全て入れてしまうと、何食わぬ顔で駅前のハンバーガーショップの店員になっていた。 「……別人だね」  仕事中の彼は終始笑顔で、強盗をしてきたとは全く思えない。こういう目撃者になるのが、面白いらしい。 「今のは、俺が追跡したわけ。逃走ルートの監視カメラを繋げて追っている」  旗幟も、暇な時はこのゲームをしているらしい。おかげで、旗幟は監視カメラの位置に詳しくなったという。 「ここで、一番稼げるのは、リアルタイムで事件を発信した者だよ。皆、情報を買って接続している」  情報の売買には興味はないが、八重樫の家の周辺、曰く付きの青い車、五十鈴のバイト先は確認したい。このゲームには参加費と登録料がかかるが、申し込んでみた。  すると、返信ではなく、電話が掛かってきた。 「やっぱり、上月か。俺だよ」  俺という人には心当たりがなかったが、声には聞き覚えがあった。 「もしかして、谷津 尋(やつ ひろ)か?」  谷津は村の俺の実家の、二軒隣に住んでいた幼馴染であった。学年は一つ下で、電気に強く、家電をよく修理して貰っていた。外の大学に通いたいと言っていたが、×の進学は難しい。×は仕事では外の世界に行くが、進学では出る事が難しいのだ。  でも、谷津は通信制の大学で電気を学んでいると聞いていた。 「守人様からは代金を取れないよ。登録はするから、そのまま遊んで」  電話が切れると、ヤツヒロというキャラクターのボタンのようなものが増えていた。そこを選択すると、操作が可能になるらしい。おおまかな使用方法を、口頭で旗幟から教えられると、八重樫のアパートの外を見た。
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