第一章 雪みたいに花みたいに

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 箪笥から手だけ伸ばしているのは、志摩(しま)、俺の幼馴染で、今は恋人でもあった。志摩は、無形の生き物であり、俺の出身地である壱樹村(いつきむら)では、×(ばつ)とも神とも呼ばれる存在であった。  志摩は、手を伸ばすと皿を持ってきて、総菜を盛り付けていた。志摩は手しか出ていないが、ちゃんと見えていて、惣菜を綺麗に盛り付け、更にテーブルに並べている。 「李下さん、食事にしましょう」  元風呂屋のここは受付部分で、残っていた備品をそのまま使用していた。李下は、待合に使用していた椅子に座り、食事を始めていた。  同居しているといっても、ここは敷地面積があったので、三つの独立した部屋で、リビングが共有の状態に近い。李下は、元更衣室を改造して使用しているが、そこにも、寝室と居間と風呂、トイレなどが別にある。  食事だと聞こえたのか、もう一人の同居人の黒川が、ドアを開けて入ってきていた。黒川はホストで、夜から仕事であるが、今日は電車も止まっているので、休みなのではないのか。 「飯……どこ?」  黒川は寝起きが悪く、今も半分は眠っている。俺が、食事のトレーを持たせると、首を傾げていた。 「……少ない」 「おかわりしてください」  すると、黒川が頷き、受付にイスを持って来ると座っていた。受付は、昔の風呂屋の名残の受付であるが、黒川はその高さが好きらしい。  俺は、窓際にある小さな畳の間に卓袱台を置いて、志摩と食べるのが日課であった。 「上月、学校はどうした?」  黒川は、次第に目が覚めてきたようだ。すると、食事のスピードが速くなり、おかわりをしていた。 「台風で休講ですよ」   この分ならば、光二も休みなのではないのか。  俺は人ではあるが、守人様という能力を持っていた。俺の名前の由来も、守人様からきている。  守人様の特徴として、二重人体というものがある。一人の人間の空間に、二人が同居しているのだ。二重人格と異なり、分離が可能で、人二人が重なっている状態であった。頭も記憶も別物で、二人であるのだが、一つの空間にいる。  俺の相棒は、上月 光二(こうづき こうじ)、俺達は双子で生まれ、同じ空間に生きている。 「志摩、黒川さんに全部食べられるよ。おかわりしておく?」  志摩は、急いでトレーを持ってゆくと、煮物を山のように盛っていた。 「ん、志摩。随分食べるね」
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