第五章 雪のように花のように 五

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 しかし、幾人かの野次馬が、窓からカメラを向けているのは分かった。 「ヤツヒロ、部屋の中が見たい」  すると、了解との返答がきていた。  見えている部屋は、共有になっていて、部屋の中に防犯カメラがついていた。その防犯カメラの映像を、谷津が盗みだしていた。 「ポルノ?」 「それは、違うでしょ」  どこかで、声が聞こえていたが、誰なのか分からなかった。これは、防犯カメラに写っていた、乱交であった。皆裸で、紡ぎ合っていた。横が八重樫の部屋なので、闇に当てられてしまったのだろう。それ自体には、不思議はない。  その中に、一際スタイルの良い女性がいて、それが日本刀の彼女なのだと分かった。彼女は、幾人もと身体を重ね、狂態を晒していた。  その彼女の中には、もう一つの闇がある。それが胎児だと分かると、悲しい気分になった。 「谷津、これ過去の映像だよね?」  画像は十分程前に移動されていた。画像を操作しているのは、谷津のようだ。すると、そこには、乱交をしている男女と、日本刀を持った彼女がいた。闇がなくても乱交できるのは、そもそも乱交が好きか、何かの中毒患者であろう。 「声が聞こえる。腹の子の父親を殺せ。汚した者を全て消せ……」  彼女は、刀を振り回し、裸の男女を二分で殺害していた。 「凄腕……」  日本刀を得物に選んでいるので、刀の類に馴染みがあるのであろう。切り口が鮮やかで、スッパリと切れている。しかも、躊躇もない。居合い抜きにも似ているが、鞘はどこにもなかった。  二人を二分で殺すと、隣の部屋に入って行った。 「うむ……死んだかの確認はしないのか」  ターゲットがこの二人であったならば、もっと執着するとか、死んだかを確認するだろう。では、この二人はただ居たから、殺されてしまっただけだ。  彼女が隣の部屋から出てくると、返り血をかなり浴びていた。先程の切り口からすると、手慣れていたが、こんなに返り血を浴びたとすると、部屋が狭いか人数が多かったかであった。  八重樫の部屋に類似しているとすると、奥の部屋は四畳半ほどで狭かった。その部屋の映像はないので、状況は分からない。でも、やはり、ターゲットではなかったようで、まだ彷徨って探していた。 「何を探しているのだろう」  いや、誰かを探して殺そうとしている。その誰かは、どこにいるのであろうか。
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