第五章 雪のように花のように 五

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 すると、画面に顔写真とヤツヒロのマークがあった。彼女が探している人の写真を、有料で売っていた。その相手は、教祖で年配の男性であった。やや太っていて、好色そうに見える。 「あ、これ、有料か」  そこで、又、コメントが入り、守人様から金は取れないよとあった。  この顔は、どこかで見ている。歩いてきた商店街、駅、この野次馬と顔を照合してゆく。すると、駅の薬局の前でスタミナドリンクを購入していた男と一致していた。あの時、俺と同じ方向へ歩きだしていたので、ここに向かっていたのではないのか。  そこで、押し入れから出ると。そっと窓の外を確認してみた。 「上月、窓も開けてはいけないよ」  八重樫が窓を閉めようとすると、そこに手が差し込まれていた。そこで、俺は教祖の現在地を追跡してみた。 「この人ならば、駅に向かって走って?いますよ」  走っているのか、歩いているのか分からない状態だが、焦っているのは見て取れる。あちこちの人にぶつかっては、謝っていた。 「このブタ殺す……」  部屋に若い女性の声が響いていた。  八重樫が必死に窓を閉めようとしているが、手が中に入っていた。手の向こうには、どこも見ていないような暗い目が、こちらを見ていた。その顔にも血が飛んでいるが、気にする様子もない。  虚ろな暗い目で、女性は部屋に誰がいるのか確認していた。 「……闇ならば、用意したけど、君にはもう遅かったね……」  でも、闇玉を手に持たせてみた。すると、瞬間、正気の目に戻っていた。 「……心地よくて、居場所みたいだった。教祖様は私を可愛がってくれた……でも、全部嘘だった」  騙されたと泣いていた。多くの人と交われば、心が豊かになると諭していたが、荒むばかりであったという。そこで、教祖様に相談すると、もっと会に来るように言われたらしい。会に来ると、様々な男への接待を強要されていた。 「……酔いが覚めると、自分のしてしまった過ちに気付き死にたくなった……でも、現実に戻れない……すごく辛い……」  酔いが覚めるとは、闇が切れた状態らしい。そして、後悔とともに禁断症状が出て、殺したくてたまらなくなったらしい。 「一人で死にたくない……こんなに辛くて悔しくて、寂しいのに、死ぬ時も一人だなんて考えたくない。皆、殺してから私は逝く……」  再び、目に光が無くなると、窓から手を引き抜いていた。
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