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「止まりなさい!刃物を下に置きなさい!」
怒鳴るだけで、犯人が捕まれば苦労はしない。でも、日本の警察は、親切で誰にも優しい。特に凶悪犯には優しいのかもしれない。これがアメリカだったら、既に銃殺されていそうだ。
「……皆、殺す。私に触れた者、私を抱いた者……私は汚されてしまった……」
教祖は可愛がってくれたと言いつつも、激しい恨みを感じる。過ちから抜け出るのは容易ではないが、抜け出て欲しかった。
たった一日で禁断症状が出るなど、闇の効果は恐ろしい。でも、彼女が×だとすると、飢餓状態にも近いのかもしれない。
歩く彼女は、教祖を追い掛けていた。しかし、警察が手を伸ばすと消えてしまった。
「消えた?」
すると、ゲームの機能で追跡が始まっていた。ヤツヒロがコメントを入れていて、×の殺戮衝動と能力が目覚めたとあった。
「李下さん。彼女は教祖を追っています。教祖は駅のホームです」
李下は頷いたので、聞こえただろう。しかし、野次馬にも聞こえていたのか、走ってゆく人影がちらほらあった。
俺は追う気はしないが、ここで事情調書も受けたくない。
「八重樫。俺、光二に代わって仕事に行くから」
「気をつけてね」
そこで、光二にチェンジすると、光二はかなり怒っていた。
「スーツに皺と汚れがついた。守人、俺の服を着る時は大人しくしていろ!」
俺は、光二の中で心臓の奥に隠れる。隠れていても声は変わらずに聞こえるのだが、要は気持ちの問題であった。隠れていると、少し逃げた気になる。
「しかも、この状況……」
しかし、光二は臆する事なく玄関から出ると、人混みを歩いていた。光二が、余りに場違いな雰囲気であったので、皆、記憶に残せない。
「守人、電車を止める前にチェンジして欲しかったな……」
刀を持った女性がホームに入り、電車が止まってしまっていた。
光二は駅に行くと、バスに乗り込む。タクシーでは、記録が残ってしまうという。
「俺は、ここには来ていない」
殺人現場に居なかったし、関係もしていないと、光二が呟く。
『分かった』
しかし、光二は俺の携帯電話の画面を見ていた。そこでは、まだ追跡が続いている。駅のホームでは、数人が怪我をしていた。かなり重症の者もいて、意識のない者が担架で運ばれていた。その一部始終を、ゲームは閲覧させていた。
『殺人鬼みたいだ』
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