第五章 雪のように花のように 五

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 血塗れのホームには、刀を持った彼女が、教祖を探して見回していた。でも、殺人鬼というのは、彼女の事を言っているのではない。こうしてゲームで、傍観者としていることも、どこか狂っている。見ているだけで、助けようとはしていない。他者を助けるというのは、本能ではなく、人の心を持った証だと村では教える。笑って見ている者は、鬼か悪魔だと例えられる。この世界には、鬼や悪魔が多すぎる。 「谷津 尋って、あのガキか?」  そこで、ゲームにコメントが入る。 『ガキではないよ。さては、光二だろう?いつもながらに傲慢で勝手な奴だ』  どこで、言葉が聞こえているのであろう。このバスには、防犯カメラも、マイクなどもない。まさか、このゲームで聞こえてしまっているのであろうか。 「まだ、守人に執着していたのか……こいつはな、お前の手におえるような人物ではないよ」 『やってみないと、わからないよ』   ゲームの中で、笑い声が響いていた。  谷津は、社会に対し冷めた面のある子供であった。でも俺が守人の修行から帰ってくる時間を知っているかのように、自転車で迎えにきた。そして、後ろに乗れと言ってきた。  谷津は、俺が守人様になったら、契約して外の世界に行きたいと言った。谷津は学校に行きたいというので、俺は、いつか契約できたらいいなといつも言ってしまった。  谷津はゲームという世界で、外の世界を見ている。でも、犯罪を見る事だけに、このゲームはなりつつあった。  画面には、日本刀を持った彼女が、幾台ものカメラの前に立っていた。彼女は綺麗な笑顔で、返り血を浴びていても、その姿を損なう事がなかった。  警察に囲まれても終始笑顔で、野次馬からのフラッシュの嵐に浮かんでいた。 『彼女は×の子供で、殺人鬼の気質が濃く出ている』  ヤツヒロというコメントが浮かぶと、彼女の人生が綴られていた。美少女として両親に可愛がられながらも、飢餓状態になると何かを殺す。人形をバラバラにして、ペットを殺してゆく。そして、闇が満たされたのも束の間、又、飢えと禁断症状から自身を失った。 「哀しい人生だな……」  こうなってくると、村の掟というのは間違いだけではないと分かってくる。×の子供は、殺人鬼になり易いのだ。 「守人、もう眠れ。俺は仕事場に行く」 『分かった』  俺は、光二の心臓で眠りについた。
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