第一章 雪みたいに花みたいに

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 そこで黒川に睨まれた志摩は、仕方なさそうに、黒川にも煮物を盛っていた。  黒川も、更衣室を改造して住んでいる。  李下が元女子更衣室で、黒川が男子更衣室を改造している。俺は、職員用の休憩室を改造し部屋にしていた。他に、物置を改造して一部屋と、休憩室兼通路、天然温泉の内風呂がある。住居として快適かは微妙であるが、立地的には便利であった。駅ビルなので、駅に近いのだ。  食後にコーヒーを淹れようかと、立ち上がると、ドアが幾度も叩かれていた。 「どなた?」  ドアを開けると、氷渡(すがわたり)がびしょ濡れで飛び込んできた。 「駅ビルの出入り口が封鎖されていて、階段で来たよ」  外の非常階段を登って来たらしい。俺がタオルを渡すと、頭を拭いていた。 「氷渡、喫茶店ひまわり、今日は休みになった。惣菜が余っているから、食べてゆけよ」 「そうだな……そうする」  氷渡は、壱樹村の町長の息子で、ここを借りているのも、氷渡の名義になっている。村には学年に一クラスしかなかったので、幼馴染となるが、互いに記憶は薄い。氷渡は弁護士を目指していて、同じく大学生であった。  氷渡にトレーを渡すと、李下の前に座って食べていた。俺は、再びコーヒーを淹れる事にする。  この駅ビルの屋上には、喫茶店ひまわり、俺の住居、他に屋上庭園、氷渡の住居部分がある。結構広いので、氷渡と同じ敷地に住んでいるという感じはない。 「李下さん、コーヒーでいいですか?」 「上月、俺にも」  黒川が手を挙げて主張している。  風が強くなってきて、窓も揺れる感じがしている。窓から下を確認すると、駅前は誰もいなくなっていた。車の通りもほとんど無くなった。 「あ、停電?」  駅前が停電になるなど珍しい。それ程、風が強いということか。  俺は蝋燭の代わりに、白光丸を出し部屋の真ん中に投げておく。すると、氷渡が丁寧に紐で下げてくれた。 「便利なもんだ」  俺は光とのリンクを持つ者で、白光丸は俺の刀であった。白光丸は、俺とリンクしていて光る事が可能であった。  更に風が強くなり、激しく叩く音がしていた。 「……叩く?」  これは、風ではなく、誰かが非常階段のドアを叩いている。 「放っておこうかな……」  叩き方で、誰が来たのか想像はつく。しかし、家に入れたくない。  すると、叩く音が止んだ。 「小田桐も一緒か……」  今度は、俺の家のドアが激しく叩かれていた。
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