第六章 銀色

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 志摩と口論しながら、テラス席まで歩いてくる。 「上月、危ない!」 「切丸、オロチ」  切丸から光が伸びると、刀を防いでいた。その間に、俺は境界にある木の根元に行った。  ここで李下が、あの女性を切ってしまったら、こちらの世界で殺人になってしまう。彼女は、こちらの世界の住人でもあるのだ。しかし、村では彼女は×で、人を殺した掟破りになるため、李下は罪に問われない。  俺は志摩を背から降ろすと、木に向かった。 「志摩、下から彼女を掴んで村に連れ込んで!」 「守人さん、落とさないでください!」  志摩の文句が聞こえたが、俺は根元から箪笥を村に落としていた。 「ぎゃあああああああ!」  志摩の悲鳴の後に、ドスンと鈍い音が響く。しかし、割れたような音は無かったので、大丈夫であろう。 「志摩、手を伸ばして!」  そこで、木の根元から手が伸びてきていた。 「李下さん、彼女をこっちに追い込みます」 「分かった」  李下は刀を納めると、紐のようなものをだした。その紐を空中に張り巡らせると、逃げられないようにする。しかし、狂気に沈んでいる彼女は、紐など気にせずに教祖だけを見ていた。 「犯されれば、汚くなるだけでしょ?綺麗って何なの?清いって何?嘘よね?いつも嘘よね?」  何かを確認しようとしている。 「妻と別れて君と結婚する?それも嘘よね?奥さんは資産家の娘なのよね?絶対に別れないでしょ?まだ奥さんの両親が生きていて、資産が自由に使えないものね?だから、我慢して浮気をするの?」  彼女の目の焦点が合っていない。教祖は腰が抜けているのか、立ち上がる事もできないでいた。 「教祖、ここの木の根元に来てください!」  追い込むよりも、教祖に来て貰った方が早い。教祖は腰を抜かしていたが、這うように木に向かってきた。 「嘘じゃない!世界は一つ、皆愛し合えば家族だろう!」  そこで、まだ、そんな嘘をつくのか。こちらの世界は元々一つだ。皆、愛し合ったならば、又、砂漠のような地獄があるだけだ。唯一無二の大切なものがあるからこそ、世界は輝いて大切になる。 「この子の親は、世界なの?この子は誰の子供なの……この子も汚れていて醜いの……?」  教祖がじりじりと近寄って来たので、俺は背に回ると服を引っ張り、木に誘い込んだ。 「志摩、掴んで引き下ろせ!」  そこで、志摩の手が巨大化し、包み込むと村へと引っ込んでゆく。
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