第六章 銀色

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「あ、教祖も一緒に連れて行った……」  そこで、李下も木に飛び込み追っていた。 「……志摩?無事?」  そっと呼んでみると、志摩の手が木の根元に見えた。志摩の手を掴んだ瞬間、凄い力で地面に引き込まれそうになった。俺は足を踏ん張ってみたが、地面に落ちそうになっている。 「志摩!重い!」 「はい!守人さん、酷いですよ!」  そこで、マグロを釣り上げるように、志摩の箪笥を引き上げた。  志摩の箪笥は、戸が斜めに割れていて、中が出そうになっている。この切り口の鮮やかさからすると、刃物で切られたのであろう。  志摩は、箪笥から手を出しながら、しきりに戸を押さえていた。 「守人さん……酷いですよ……怖かったですよ……刃物で、これ、ばっさりですよ」 「ごめん、志摩」  箪笥ごと抱き締めておく。 「あ、謝ればいいと思っていませんか……箪笥、壊れました」 「ちゃんと、治すよ」  予備があるので、暫く志摩には箪笥を変えて貰おう。 「守人さん、私は、入れ物がないと不安なのですよ……だから、箪笥から出さないで……」  俺も、志摩に泣かれるのは辛い。 「分かったよ。志摩、ちゃんと箪笥は治す」  志摩の手が伸びて、箪笥に抱き着く俺の背を、同じように抱き込んでいた。 「今日は、一緒に風呂に入りましょう。一時間は、覚悟してください」  そこで、何故風呂なのか分からないが、志摩がそれで許してくれるならば、それでもいい。 「分かった、約束」  指切りをしようとすると、手の大きさが違い過ぎた。志摩が、小さな手を出そうとすると、押さえていた扉が落ちて、取りつかなくなってしまった。そこで、志摩が再び泣いている。  仕方がないので、ガムテープで仮止めすると、厨房へと運んでおいた。 「やっぱり、今日は、守人さんを食べます……」 「はいはい」  志摩が泣き止まないので、適当に返事をしてしまった。  そして、喫茶店ひまわりのモーニングの時間が終わろうとする時間になったが、李下が帰って来なかった。李下が負けるということは考えられないので、色々と手続きに手間取っているのかもしれない。でも、店番がいないので、大学に行く事ができない。  偉智に電話を掛けてみると、急いで向かうと言ってくれた。でも、それでは一時限目には、間に合わない。困っていると、寝ぼけた黒川がきて、何か頷いていた。 「李下から連絡がきた。上月、学校」
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