第七章 銀色 二

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「あれ、志摩?いたの?」 「引っ越ししていました。荷物もあれこれ片付きましたよ」  引っ越し先の箪笥は、前に永新が山で購入した箪笥であった。箪笥は改造が終わり、柴崎に設置しておこうとしていた所で、運ぶ前で良かった。 「中々、いい感じだね」  やや渋いが、いい箪笥であった。模様も入っていて、見ていても綺麗に感じる。 「守人さん、まず、風呂です」  志摩は、やっと安定して手が出せるようになったと呟いている。やはり、入れ物を変えると、自在に動けるようになるまで、やや時間を要するらしい。 「はい、はい」  着替えを用意すると、志摩が俺を掴んで風呂場まで運んでいた。 「では、まず俺が洗います!志摩、手を出して」  志摩に何本か手を出して貰うと、順番にタワシで洗ってゆく。志摩の手は千本程もあるようだが、メインで使用している手は決まっている。それに、使い捨てにしている手もあるらしい。  小さい手は、丁寧にタオルで洗う。  ここは温泉で、地下から湯を引いている。水も井戸水となっているので、水道代の心配もない。電気代金が気になるところだが、最近は空いている屋根の部分に、太陽光発電のパネルを置いている。  志摩の手を洗い終わると、俺は自分の体を洗おうとした。すると、志摩が俺からタオルを奪った。 「守人さんを洗うのは、私の楽しみなのですよ。自分で洗わないでください」  そこで、志摩は俺を手に包むと、泡を乗せてゆく。 「守人さん、小さい!」  泡で優しく包むと、ガーゼのような布で、優しく洗ってくれる。そのガーゼが温かく、気持ちがいいので、俺は泡の中に沈み込んで眠ってしまった。  でも、泡の中では息ができないので、慌てて泡から顔を出そうとする。そこを、志摩の手がつまんでいて、そっと首を押さえてくれた。 「髪も洗いましょう」  この時点で、俺は完璧に眠ってしまっていた。 「洗い流しますよ」  志摩が、俺の目と口に指を当ててから、湯で流していた。 「守人さん、ここも洗っていいですね」  声は聞こえていたが、覚醒していないので、意味が分からない。こことは、どこであろうか。しかし、尻から内臓に湯が入ってきて、慌てて飛び起きてしまった。一体、何が起こっていたのだ。 「守人さん、うがいと一緒ですよ。はい、吐いてしまいましょ」
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