46人が本棚に入れています
本棚に追加
/186ページ
「あれ、志摩?いたの?」
「引っ越ししていました。荷物もあれこれ片付きましたよ」
引っ越し先の箪笥は、前に永新が山で購入した箪笥であった。箪笥は改造が終わり、柴崎に設置しておこうとしていた所で、運ぶ前で良かった。
「中々、いい感じだね」
やや渋いが、いい箪笥であった。模様も入っていて、見ていても綺麗に感じる。
「守人さん、まず、風呂です」
志摩は、やっと安定して手が出せるようになったと呟いている。やはり、入れ物を変えると、自在に動けるようになるまで、やや時間を要するらしい。
「はい、はい」
着替えを用意すると、志摩が俺を掴んで風呂場まで運んでいた。
「では、まず俺が洗います!志摩、手を出して」
志摩に何本か手を出して貰うと、順番にタワシで洗ってゆく。志摩の手は千本程もあるようだが、メインで使用している手は決まっている。それに、使い捨てにしている手もあるらしい。
小さい手は、丁寧にタオルで洗う。
ここは温泉で、地下から湯を引いている。水も井戸水となっているので、水道代の心配もない。電気代金が気になるところだが、最近は空いている屋根の部分に、太陽光発電のパネルを置いている。
志摩の手を洗い終わると、俺は自分の体を洗おうとした。すると、志摩が俺からタオルを奪った。
「守人さんを洗うのは、私の楽しみなのですよ。自分で洗わないでください」
そこで、志摩は俺を手に包むと、泡を乗せてゆく。
「守人さん、小さい!」
泡で優しく包むと、ガーゼのような布で、優しく洗ってくれる。そのガーゼが温かく、気持ちがいいので、俺は泡の中に沈み込んで眠ってしまった。
でも、泡の中では息ができないので、慌てて泡から顔を出そうとする。そこを、志摩の手がつまんでいて、そっと首を押さえてくれた。
「髪も洗いましょう」
この時点で、俺は完璧に眠ってしまっていた。
「洗い流しますよ」
志摩が、俺の目と口に指を当ててから、湯で流していた。
「守人さん、ここも洗っていいですね」
声は聞こえていたが、覚醒していないので、意味が分からない。こことは、どこであろうか。しかし、尻から内臓に湯が入ってきて、慌てて飛び起きてしまった。一体、何が起こっていたのだ。
「守人さん、うがいと一緒ですよ。はい、吐いてしまいましょ」
最初のコメントを投稿しよう!