第一章 雪みたいに花みたいに

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「開いているよ……」  もうドアを開ける元気もなくなりそうだ。 「あ、食事中だった。ごめんね。お邪魔するね」  同じくびしょ濡れで入ってきたのは、八重樫(やえがし)であった。八重樫は、医者を目指す大学生で、同じ村の出身ではあるが、学年は上であった。 「八重樫、何か用?」 「先輩って付けてよ。上月、俺と上月の仲じゃない」  そこで、後ろに控えていた小田桐が事情を説明してくれた。八重樫は医学部で、相当な金がかかる。その為、安アパートに住んでいるのだが、そこは雨漏りがするのだそうだ。 「雨盛りだけではなくてね、もうすぐ床上浸水しそうな状況です……」  八重樫は、貴重品を持ってきていた。  そして、山ほどの荷物を、小田桐が担いできていた。全て八重樫の本などであったが、小田桐は嫌な顔ひとつしていない。 「で、どうしてここに来るの?」  そもそも、小田桐は働いているので、もっといいアパートに引っ越せばいいのだ。 「ここに越して来ようかと思ってね……氷渡、ダメかなあ。空いている場所に、一部屋作ろうと思うのだけれど」  そこで、小田桐が設計図を出していた。小田桐は建築業であるので、かなり本格的な図面で、元内風呂と露天風呂の排水と水道を使用し部屋を考えていた。 「断る!」  氷渡も、八重樫には容赦がない。  八重樫は、困った面があり、トラブルを持って来るのだ。それに、もう一つ、物凄く嫌な事がある。  壱樹村には、家という集合体があり、そこでの当主は、昔でいう殿様であった。氷渡家は、目の前にいる氷渡が次期当主候補であった。八重樫家も、ここにいる八重樫が次期当主候補であった。  家には、従える家臣とも呼べる×が多く存在している。そして、家毎に、×との契約方法が異なる。氷渡家は、書類での契約になる。八重樫家は、肉体関係が契約なのだ。  それも、八重樫家の場合は、直腸のやや上部、S字結腸の付近に、契約によって使用される闇とのリンクを持っている。そこを刺激される事により、契約している×へ闇が供給される。×は、食事だけではなく闇を食べて生きているのだ。  八重樫が近くに居るということは、近くで激しい結合が繰り広げられるということだ。そのせいで、八重樫の母親は子供を産むと逃げ、他の女性も逃げてゆく。でも、それは、俺も嫌だ。 「でも、氷渡、俺は家賃を支払うよ」
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