第八章 銀色 三

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 偉智が、これから暗黒世界というショップのバイトに行くというので、そっちの様子も聞いてしまった。 「相変わらず、売れるのは身代わり人形くらいですけど、俺のバイト料金くらいは稼いでいます」  暗黒世界という怪しいショップでは、紗英のまともな人形は売れないらしい。 「こっちでも、闇玉を売ろうかな……」  こちらの世界では、闇が少ないので×が狂ってしまうのだ。ならば、闇玉を売ってみたらどうだろう。 「村の人が身に付けているような闇玉は危険ですよ。真珠くらいの大きさにして、適度な値段がいいでしょう」  数珠の粒に混ぜて売るのがベストと言っている。では、試作品を慧一に頼んでおこう。  でも、暗黒世界は夕方から夜中までの営業であった。その後は、偉智の部屋として使用されている。でも風呂がないと偉智が嘆いているので、シャワーくらいは付けてやりたい。 「それでさ、木の器も売ってみて」 「何の店ですか……」  でも、紗英の造る人形には、木のグッズがよく似合う。どこか、アンティークで迫力がある。  そこで偉智が、店が何故混んでいるのか教えてくれた。今日は、近くの巨大な配送センターでシステムダウンがあり、一時全面配送ストップになったらしい。そこで、復帰が行われ、今が昼飯という殺気だった人々がやってきている。  この時間に定食を出しているのは、この店くらいなので、集中しているらしい。 「そうか、大変そうだね」  では、一品サービスをしておこう。俺は、紗英から貰うクッキーを取ってあったので、小袋に入れると客に配った。 「がんばってください!」 「ありがとう、嬉しいよ」  持ち帰って食べるという。 「元気が出る粉でも入っているかな?」 「それは怪しいですね。でも、手作りで俺の義姉が作っています!美人です!」  それは元気が出ると、幾人かが笑っていた。クッキーなど食べないと言っている人も、一口食べて黙っていた。素朴な優しい味だが、蜂蜜が使用されていて、脳の疲れには糖分が効果的だった。 「ありがとう。元気が出た」  ありがとうと言われるのは、とても嬉しい。 「弁当もあります!」  そこで、さり気なく弁当も売り込んでおく、まだまだ会社から帰れそうもない人が多く、弁当も多く売れていた。 「李下さん、俺一人でもどうにかなりそうですので、戻って休んでください」 「うん。休みたいけどね……」  定食は途切れそうにもない。
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