第一章 雪みたいに花みたいに

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 この能天気な八重樫は、小田桐に激しく抱かれるようになってからも、能天気であった。それには、やや救われるが、それとこれは別物で、近くに住みたくはない。 「家賃の問題ではないよ。小田桐さん、いい部屋を用意してください」  そこで、小田桐が項垂れていた。 「……用意しましてもね、建翔様、文句を言って出てゆかれるのですよ」  それは我儘なのではないのか。 「……俺と小田桐は、結合するでしょう?闇とのリンクが開くと、多くの闇が流れ込んで来る、すると、一階下の部屋の住人が飛び降り自殺、横の学生は踏切自殺、上の住人はノイローゼで殺人」  一般の人では、八重樫の闇は絶えられない状況になるらしい。そして、今、八重樫の住むボロアパートは、一階でしかも、隣は宗教団体であった。逆に宗教団体では、闇の部分が利用されているので、それはそれで怖い。 「まあ、自殺でも未遂だったけどね」  八重樫なりに考えているらしい。 「でも!ここはダメ……客商売なんだから」 「そうか……」  八重樫は、ほんの一瞬がっかりしたが、すぐに立ち直ってしまった。 「嵐が去れば、又、アパートに帰るよ!」  もしかして、今日は泊まるつもりなのであろうか。八重樫は、勝手に惣菜を漁ると、俺の前で食べ始めた。小田桐には、志摩が惣菜を盛り付けて渡している。 「多美さんの料理は、美味しいよね!」  畳の横に荷物を置いているので、ここで眠るつもりかもしれない。 「それでさ、上月、見て欲しい物があるのだけど」 「まだ、何かあるの?」  そこで、八重樫が出してきたのは、画像であった。これは、アパートの前の駐車場に停められている車で、新車ではない。でも、よく手入れされているように見受けられる。  深い青の車で、人気の車種だったと記憶している。ホイールが金色で、タイヤは新品であった。 「……この車さ、三か月前かな。大学にあった気がする、事故に遭って廃車になったと聞いた」  車の持ち主は、八重樫と同じ医学部で兄貴の車を譲り受けたと言っていた。兄貴は会社員になっていて、電車通勤になり車を乗らなくなったのだそうだ。  その兄貴は車を中古車で購入していた。人気の車種であったが、中古車で安く売っていたらしい。傷や凹みはなく、エンジンや内装にも異常はなかった。安い理由を聞くと、事故車で修理したと言っていた。でも、試し乗りしても快適であった。 「不幸の継承なのか……」
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