第八章 銀色 三

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 俊樹は、×であるのに、皆が欲しがるような遺伝子が無かった。能力は人と変わらず、それでいて、×の性質で大食いであった。 「でも、多美さんも同情したのでしょう?」  だから、ここに連れて来てしまったのではないのか。 「まあ、この子は私の料理をよく見に来ていて、それを暗記していた。それが、何だか嬉しくてね……」  でも多美は、俊樹が生贄になることには、賛成しているという。 「ただ死ぬよりも、喰われて死んだ方がいい。誰も喰わない遺伝子でも、生贄ならば誰かが喰う。最後のチャンスかもしれないね」  それが、家族の優しさなのかもしれない。そう思おうとしたが、やはりやりきれない。 「モーニング来ます」  そこで、トレーを並べ、器を乗せてゆく。最初は見ていた俊樹だが、十分もすると定食のセットを覚えたらしい。次に器に盛り付けを覚え、手が空くと料理を作っていた。 「こちらの世界で有能であっても、村では喰わない×になる」  助ける方法は、一つある、俺が、契約してしまえばいいのだ。守人様の契約は、死刑と同等になる。しかし、多美の言うように、喰われるチェンスではあるのだ。×の喰われてもいい、自分の遺伝子を残したいという思いは、俺には理解できない。でも、理解できなから無視するのではなく、尊重はしていたい。  モーニングの時間が過ぎると、李下がやって来たので、俺は大学に行く準備をする。 「あ、志摩の箪笥、修理に出しておくよ。かなり時間がかかるそうだよ」  李下が予約を入れてくれていたのか。 「すいません、ありがとうございます」  李下は、掟破りを捕らえる為に箪笥が壊れたので、修理代金は経費で落とすと言っていた。 「もう、志摩が刀で切られていなくて良かったよ。箪笥に切りかかるとは思っていなかったしね」  志摩の箪笥を、少し改造しておこう。今度は、刀でも切れない箪笥にするのだ。
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