第九章 銀色 四

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 気合を入れていったが、途中で睡魔に負けそうになった。本を読んでいるような講義は、やや辛すぎる。  そこで、眠った瞬間に、小さな音で警報が鳴っていた。これは、村の者にしか聞こえない周波数で、これに反応した者は、少なくとも同郷の何かになる。でも、顔を上げてこちらを見たのは、講師であった。 「今日は、これまでにします」  やや青ざめて去ってゆくのは、簗木(やなぎ)という名前だった気がする。 「上月、学食に行こうよ」  五十鈴が声をかけて来ると、珍しく旗幟も一緒にいた。  学食に行くと、今日は窓側に座る。すると、正面に旗幟が座っていた。定食を食べ始めると、すぐにおかわりしておく。すると、旗幟が笑って、エビフライを分けてくれた。 「上月、姉さんが設計図を見せてと言っていたよ」 「家のかな?」  それは、小田桐が持っていると説明しておく。 「え、上月、又、引っ越すの?」 「いいや。今度は兄の家が引っ越し」  それと、八重樫も引っ越しだなと呟く。 「八重樫さんは、実家から通ったらどうですか?」  以前ならばともかく、今は旗幟も村から通学している。通えない距離ではないだろう。 「八重樫、実家を嫌っているからな……」  八重樫が実家を嫌う理由もわかる。でも、こちらで家賃に困っているのならば、多少は我慢した方がいいのではないのか。  そこで再び、警報が鳴っていた。誰なのかを特定しようとすると、コメントが浮かんでいた。 『ゲーム以外に使用しないでください』  これは、ゲームからの警告であった。そこで、ゲームを消そうとすると、簗木の顔が浮かんでいた。簗木が村からの逃亡者であるらしい。どうして講師をやっているのか分からないが。元は柴崎から逃げた×なのであろうか。  満千留に連絡すると、対処すると返ってきていた。対処するのかと、ぼんやりと考えていると、次の瞬間には、警報が消えていた。もしかして、簗木も消えているのかと周囲を見回してしまった。 「上月、食事中はゲームを止めようね」  旗幟に携帯電話を取られたが、今度は電源が切れなかった。すると、旗幟が何かを理解した。 「うん。警報はいいね……」  旗幟も、うんざりするほどの、俺の災難体質を理解してきたらしい。巻き込まれるからと、慧一からは俺との付き合いを制限されているという。 「幼馴染が作ったゲームでさ。進化系だよね……」
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