第九章 銀色 四

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 一駅しか乗らないのだが、それでも俊樹は、電車に乗れた事が嬉しいという。隣の駅で電車を降りると、地図の通りに歩いてみた。初めて降りた駅で、こんなに小さいとは思わなかった。それに、駅前にコンビニが一軒あるだけで、他には本屋も飲み屋もない。  再び駅名を確認すると、ここは鈍行列車しか止まらないらしい。それでも、近隣の駅が発展しているのに比べ、余りに酷い気がする。  ここで、美容院をしていても、客が来たとは思えない。しかし、少し歩くと、大きな工場があった。工場の裏には、巨大な駐車場もあるので、人は多く歩いていた。  ここは、駅よりも車が中心になっているのかもしれない。でも、学生は貧乏な者も多いので、安い部屋ならば借りるのではないのか。  でも、線路に向かって歩いてみると、道路事情が悪く、道が細い上に、線路が踏切になっていた。ここは電車の本数が多いので、踏切はいつ開くのか分からない程に長い。その踏切の音が、一日中響いているようで、かなりうるさい。  そこで、該当の家を探してみると、すぐに見つかった。踏切の傍で、常に家が揺れていた。 「ここ、住むのが難しいよね」 「そうですね。かなりうるさいですね」  表に、車の駐車場があり、二台程停められるようになっている。下は店舗の名残で、ガラス張りになっていた。鍵を開けて中に入ると、それなりに防音になっているので、踏切も不快ではない。  二階に登ってみると、住居になっていて、小さいがリビングがあり、キッチンと風呂もあった。そこに、個室で一部屋あり、更に階段が続いていた。  三階の部分に小さいが二部屋あり、更に上に階段がある。上は屋上で、小さな部屋と、物干し台のようなものがあった。物干し台も、外から洗濯物が見えないように、囲いがあるが、そこからは線路と駅が見えていた。 「悪くはないよね?」  でも、俊樹はしきりに、二階を気にしていた。 「あの……足音が聞こえていますけど」  パタパタとスリッパで歩く音が聞こえていた。 「まだ、住人がいるのでしょ」  不動産屋は酷い状態だと言ったが、この家屋はそう酷くもない。しかし、足音が止んだ時に周囲を見ると、足元が崩れて下に落ちそうになった。 「な、何だ、これ?」  今まで確かに建物があったのに、今は、物干し台が朽ちて落ちそうになっているし、階段も所々の段が無くなっていた。
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