第九章 銀色 四

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 思わず手摺りに捕まろうとすると、手摺りも折れて落ちていた。 「最初から、こうだった?」 「いいえ。綺麗な家でした」  建物の幽霊というのもあるのか。  改めて物件を見ると、鍵は要らないと分かる。一階の窓が割れていて、出入りは自由だ。しかも、床も抜けていて、地面になっていた。  元階段を、どうにか降りて二階に行くと、やはり、床が抜けていて、窓も外れてしまっていた。雨風のせいで、家の傷みが激しく、これでは住めるように修復するよりも、建て直した方が早い。 「これは、修理も無理でしょ……」  ガラスも地面に散乱していて、誤って踏むと、大怪我をしそうだ。 「無理ですね……」  でも、鍵を開けて入ったので、鍵を掛けておく。正面のガラスも割れてしまっているので、ドアの鍵を閉めても、横から入れる。俺が見た幻は、今の状態を嘆いているのかもしれない。元は、未来への夢が詰まっていたのに、今は廃墟となっている。  俺は写真を撮ると、不動産屋にクレームを入れておいた。すると、やはり無理かと返答が返ってきていた。  ここは、一旦更地にして、ちゃんと地鎮祭をしてから再利用した方がいい。生きていた人の思いが今も残っている。 「次はバス移動ね」  そこで、今度はバスに乗ってみた。俊樹は、やや静かになっていたが、やはり乗り物にはしゃいでいた。 「俊樹、どうしたの?」 「人の思いというのは、残るのだなって思いまして……俺も何か残せるのでしょうか?」  それは、生贄が決まっている俊樹に、迂闊に回答できない。バスを降りると、不動産屋に行き鍵を返しておく。 「早いですが、鍵を返します。あの物件は検討するまでもなく、廃墟ですよ」 「そうだよね。やはり、危険だから更地にするように勧めてみよう」  周囲からも、危険だとクレームがきているらしい。 「地震で崩壊します」 「そうだよね。そう思うよ」  思っているのならば、紹介しないで欲しい。  俺は不動産屋を出ると、商店街に入ってみた。俊樹は、珍しそうに、アーケードになっている屋根を見ていた。 「村にも雨が降って、風が吹いて、雪が降って、不思議ですよね」  俺は、村でもカーナビが使えてかなり驚いた。村もどこかで、地球に存在しているのであろう。 「はい、コロッケ。揚げたてだから熱いよ」
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