第九章 銀色 四

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 俊樹に渡すと、手が熱いとハンカチを出していた。それを笑いつつも、揚げたてということを忘れて食べて、熱さに吐き出してしまった。 「アチっ、アチチ」 「大丈夫ですか!」  俊樹が驚いて心配しているが、通りすがりの人は大笑いしていた。 「気をつけて食べなよ」  近所のお茶屋の店主が、紙コップで水をくれた。 「ありがとうございます」  火傷をしたのか、水が染みる。 「ここには、雪は降らないよ。こっちに来てから、一度も降っていないからさ」  でも、雨は降るし、台風も来る。 「守人様……俺は、生まれてきた意味があったのでしょうか?」  これは哲学的な質問であった。商店街のベンチに座ると、幾人もが歩き去ってゆく。その中の子供が、俺に風船をくれた。俺が必死に要らないと断っても、子供が俺より必死になって渡してくるので、受け取ってしまった。すると、子供の親がきて謝っていた。  俺が悲しそうな顔をしたので、子供なりに慰めてくれたらしい。 「ありがとう」  俺が笑って礼を言うと、子供は満面の笑みで返してくれた。俺はポケットに手を入れると、子供に水色の大きな飴を渡した。これは、喫茶店ひまわりで時折来る子供に渡すもので、飴玉の中に、同じく飴で出来たトンボが飛んでいる。 「トンボ?」 「そう、飴の中を飛んでいる」  蝶々も時もある。前に俺が貰って嬉しかったので、作って貰っているのだ。 「飴だよ。舐めると、甘いの」  袋に入っていないと、汚いようでダメという人が多く、個包装にしている。そこに、名前と賞味期限も貼って貰った。 「ありがとう」  飴を喜んでくれたのはいいが、俺は風船が全く嬉しくない。
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