第十章 銀色 五

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 すると、小田桐が了承したが、そこで俺は結果同じ敷地に八重樫が住むと気付いた。 「あ、まあ、いいか。喫茶店ひまわりの常連になってもらおう」  長い目で見れば、これで良かったのかもしれない。八重樫が医者になり、個人医院を開くとすると、村だけでは生計がたたないであろう。この屋上ならば、駅の上なので、こちらの患者も来られるし、村の患者も来る事ができる。  その時は、この風呂屋の跡地を改造して、医院にすればいい。 「上月さん、甘いですね……」  俊樹が同情するような目で、俺を見ていた。  八重樫の住処も決まったようなので、俺は家に帰ろうと駅に向かった。 「俊樹、何か欲しいものはある?」 「そうですね。これ分身なので、物は本体には届きませんので、映画が見たいです」  駅前には大きな映画館もあった。しかし、時間を見ると、俺もバイトの時間が近いので、映画を観ている余裕はない。 「俺は、映画の時間は無かったな……一人で電車に乗れそうならば、俊樹が一人で見るか?」  そこで、俊樹は首を振っていた。やはり、知らない土地で一人は、きついかもしれない。 「上月さんとデートしたいです」 「……そうか、では土曜日だね」  デートという言葉を聞き流し、自分のスケジュールと確認しておく。  土曜日の夜からは、光二が村に行きたいと言っていたので、昼に行くしかない。 「予定を確認しておくね」  俊樹と電車に乗ると、窓からあれこれ説明をしてしまった。映画もいいが、動物園や遊園地もいい。 「やはり、上月さんは守人様ですよ。俺が会いたかった人です」  俊樹は、吊革につかまりながら、泣きそうな顔で笑顔になっていた。  家の前に来ると、俊樹は喫茶店ひまわりに戻って行った。 「上月さん。ありがとうございました」  俊樹の笑顔を見送り、俺が家に入ると、八重樫がリビングで寛いでいた。八重樫は、小田桐から連絡を受けたのか、自分の荷物をまとめて、リビングの畳に置いている。 「おかえり、上月」  どうしてなのか、八重樫が自分の家のように寛いでいると、イラっとしてしまう。俺が八重樫の住む家を探していた事は言っていない。だが、八重樫のために俺は動いていたのに、八重樫が俺の家で寛いでいるという事に、腹が立つ。 「ただいま」  寝室に戻ると、着替えを持って風呂に行く。仕事の前に、風呂に入ってしまおうとしたのだ。すると、八重樫も一緒にきていた。
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