第十一章 機械が笑う時

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「分かった。戸田を追い出すから、結界の契約をしに来てください」  そこで、男達が去って行った。黒川は俺を抱えると、部屋へと帰ろうとしていた。 「黒川さん、自分で歩けますので降ります」  その抱え方というのが、片手で俺を腕に座らせている。まるで幼児が、父親に抱えられているような恰好であった。  その片手というのが、どうにも俺のプライドを傷つける。せめて、背負ってくれたのならば、まだ恰好がつく。 「ダメ。フラフラでしょう?全く、この血を競売にかけて、儲けたお金で、船旅でもしようかな」  黒川がビンを振っていた。どうして船旅なのかというと、俺がどこかに行っても、船の中なので安心だという。 「俺と船旅ですか?」 「そうだよ。俺の守人様でしょ」  部屋に入っても、黒川は俺を離さない。でも、黒川の手が震えていて、かなり動揺していたらしい。 「上月、老衰で死んで。でも、もう俺達が生きるのに飽きた頃まで生きていて……」  黒川が、俺の背を叩いていた。 「……頼む、上月……怪我をしないで」  志摩の手がやってくると、黒川ごと俺を包んでいた。黒川はそこで、俺を離したが、今度は頬や額、口に幾度もキスしてくる。 「俺の、守人様。こんなに、無鉄砲で儚い存在は知らなかった……お願い、もう、俺の前で大切な人が死ぬのは嫌だ……生きていて」  黒川が哀しい顔をして、俺にキスするので、志摩も黒川の背を撫ぜていた。 「ごめんなさい……」  黒川を悲しませるつもりはなかった。  すると、珍しく李下も志摩の手に潜り込んでいた。 「志摩の手の中って、こんな感じか……」  やはり、俺の血を見て、李下も動揺したらしい。 「戦闘で小さな擦り傷は見てきたのにね。ちょっと動揺したね……」  李下は、俺の仮死も思い出して、倍、辛くなってしまったという。 「俺の守人様……そうだね、俺もそう思う。これは、俺のだ」  李下も一緒になり、三人で少し眠ってしまった。
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