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「何がって……家欲しいんだろ?こんな団地住まいじゃなく」 僕にしては珍しく少し嫌みな言い方になってしまったかも知れない。 嫉妬心丸出しと笑われるだろうか。 「家?何それ?」 それでもとぼける彼女に苛立って、僕の声には刺を含んでいた。 「チラシ。良いなって言ってただろ?今」 「チラシ……」 そう呟いて下を見る。 数枚遡って「ああ、これ?」と漸く何かを思い出したように僕に見せた。 「……そう、それ」 途端に彼女がふふっと笑って破顔する。 「違うのよ。そうじゃなくって……ほら、これ。これの事」 そう言ってそのチラシを指差す。 「……だから、家だろ?」 「だから違うって。よく見て、これよ、これ」 まだクスクスと楽しげに笑う彼女が指差す箇所を、僕は腰を上げて彼女の隣にどっかりと座り直して更によく見た。 その彼女の荒れて赤みがかったい指の先が差していたのは……。
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