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「良いなぁ。やっぱり欲しいな……」 妻がこれ見よがしにチラシを見ながら呟く。 ハウスメーカーの新築展示会の案内チラシ。 僕の弟が実家の近くに家を建てたのはつい先月のことだ。 弟は昔から要領もよく、三流高校をやっとの思いで卒業出来た僕とは元々頭の作りも違う。 本人に聞いたことはないけれど、小さな工場で真っ黒になりながら働く僕と保育士の妻との給料を合わせてもきっと、公務員である彼の年収には到底敵わないだろうと思う。 今は子どもも居ないが、もし出来たら更に妻には苦労を掛けるだろう。 心から愛している妻にため息混じりに新築の家を羨ましがられると僕はもう何も言い返せない。 「ごめん。苦労ばかり掛けて……」 そう謝ることしか出来なかった。 その言葉に反応して頭を上げる妻と目が合い、居心地悪く目を逸らす僕。 「え?何が?」 そんな僕の気持ちをよそに彼女が呆けた声をあげた。
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