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風にふうわりとそよぐ、いち輪の生命。微々と揺らめく土埃が、一層彼の心情をさびしくさせます。風にたゆたうあたまを上げてみれば、その先には天ひろく、悠然たる青空があるばかり。そこには白い雲がぽっかり。
―ああ。
と、彼は空転をただ見上げているだけなのです。
彼はいつも何かにおびえ、ただ心細く、そこに咲いていました。
公園のひとすみ。存在しているのに、していないか細い存在。
―僕は何故、ここにいるのだろう。
小さな生命、小さな存在はつぶやきました。
しかし、その声は誰の耳にも届かず、やはり、一日は過ぎ去っていくのです。
そんな中でも、感じる子供たちのはしゃぐ声。子供たちが遊ぶ、遊具の音は、彼の慰めであり、そこだけが彼と世界とをつなぐ架け橋なのです。
陽は傾きます。その日、その世界はぱったりと沈んでいきます。子供たちは暖かな家へと帰っていきます。
彼は、またひとりになります。
―ともだちが欲しい。
不意にそんな思いがこみ上げてくるのです。
彼は話し相手が欲しいのです。
明るいうちは子供たちがここに集まってくれるが、誰ひとりとして、彼に話しかけてくれる人はいない。
そう誰も、薄汚れた彼を相手にしようと思ってくれる人は現れないのです。
こうしていても日は経ち、月日は過ぎていきます。春から夏へと季節はうつり、その頃には、彼は生きていないかもしれません。
この世界に生きているものたちには、限られた生命がある。そんな残酷で、決まりきったこの世の時間の中でも彼は精一杯生きたいと思うのです。
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