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俺は、ふたりの深きょんが争って相川のご機嫌をとっているところを想像すると、なんとなく気が進まなくなってきた。
「じゃあ、その願いはやめるよ。べつのことにする」
俺は夢中になって、妖精への願い事を考えてみた。だが、なかなか考えつかなかった。服も靴も欲しい物はいくらもあったが、同時に相川がその倍の数を手に入れるのかと思うと、願いとして口には出せなかった。
「困ってるようね。そんなに相川を見かえしてやりたいのなら、そうなるような願いを言ってみたら。かなえてあげるわよ」
「どんな願いを」
「自分が醜くなるように願えば、相川はもっと醜くなるわよ。自分の片手をけがするように願えば、相川は両手をけがするわ」
だけど、いくらなんでも、それを口にする気にはならなかった。俺はそれほど馬鹿でもなかったのだ。
「やっと思いついたよ。なんでも聞いてくれるんだよね」
「ええ、その通りよ」
「じゃあ、あと五キロ痩せさせてくれるかな」
「その程度でいいの?」
妖精は一瞬拍子抜けしたような顔をしたが、すぐに事情を理解したようだ。
「……なるほどね、あなたも結構悪い人ね」
「五センチ足を伸ばしてほしいって願うよりはましだよ」
妖精が杖を振るうと、俺は一気に痩せていた。鏡で確かめると、更にスタイルがよくなり精悍な印象になっていた。
俺は鏡に向かいニヤリと笑った。十キロ痩せ、身長と体重の完璧なバランスを失った相川の姿を想像しながら。
《終》
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