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おぼろ月が浮かぶ春の宵。
つけっぱなしのテレビがむなしく響く部屋のなかでソファーに体をあずけ、俺は虚空を見つめていた。
「なんとかして、あいつを見返すことはできないもんだろうか」
このままでは勉強にも、スポーツにも身がはいらない。
それなりに頭もいいし、運動神経も発達しているし、スタイルもいいし、ハンサムの部類だと思う。そんな俺の悩みは、俺より、すべてにおいて優っている友人、相川の存在だった。俺はたしかにスタイルがいいが日本人としてはスタイルがいいという程度だ。黒人の陸上競技の選手並みのスタイルを持つ相川のようには完璧ではない。相川のようになるためには、あと五キロ痩せて、あと五センチ足の長さが必要だった。
「なにかいい方法はないかな」
また、つぶやいてしまったとき、どこからともなく声がした。
「あるわよ」
高い、可愛らしい声だった。俺はあたりを見回し、声の主を見つけ、目を疑った。フランス人形ほどの大きさの女の子が透き通った大きな羽を羽ばたかせながら宙に浮いていたのだ。
「何者?」
無粋な俺の問いかけに、彼女は可愛らしい声でこたえた。
「あたし、妖精よ」
たしかに妖精以外の何者でもなかった。こんな動物や人間はいないはずだ。
「なにか困ってるんでしょ。助けてあげましょうか。お望みのことがあったら言ってみて。かなえてあげる」
好都合な展開だったので、妖精の存在の非科学性などに心を悩ますことはやめた。
「可愛い彼女がほしいな。どう?」
妖精は背中の羽をゆっくり動かしながら、あっさり承知してくれた。
「いいわよ。二三日ちゅうにお届けするわ。あなたが街を歩いていると、深きょん似の女の子が話しかけてくるわ。スリーサイズは……」
俺は嬉しくなった。そんな女の子と知り合いになれることも嬉しいが、これでやっと相川に自慢できる。相川にはまだ彼女がいないのだ。
「ありがとう。そうなったら、相川はきっと悔しがるよ」
しかし、妖精は首をふった。
「そうはいかないのよ」
「どうして?」
「妖精がかなえてくれる願いの条件を知らないようね。物語で読んで知ってると思ってたわ。妖精はどんな願いもかなえてあげるけど、同時にその二倍が、その人のライバルにもたらされるのよ」
「それじゃあ、相川はどうなるの」
「深きょん似の女の子を二人、彼女に持つことになるわ」
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