春夏冬屋

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 ――へ、品物でございますか。申し訳ございません。私、品物を扱う商売をやっているものではございません。  ――なに、売らないと。じゃあ買い取りかい。質屋ってんなら入れてる品が在るだろう。そいつをおいたらどうだい。  ――へ、私、質屋でもございません。  ――質屋でもない。じゃあなんだってんだい。あんたは何をやっているんだい。  ――は、お客様の「秋」を買い取らせて頂いております。  ――「秋」を買い取る。ははあ、解ったぞ。それで、「春夏冬屋」か。しかし、秋を買い取るったって、どうするんだい。  ――へい、こちらの証文に印を押していただければ、それで契約は成立。お客様のそれからの「秋」を買い取らせて頂く、というふうに成っております。  ――秋を買い取ったあとはどうなるんだい。  ――へえ、買い取らせていただいたのですから、もうお客様に「秋」は来なくなります。春と、夏と、冬だけの人生を送っていただくことになりますね。  ――なんだか話が見えねえな。つまり、どういうこったい。     
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