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――(食い気味に)店主、俺の秋を買い取っちゃくれねえかい。
――ほっほ、これはまた急いでいらっしゃる。さ、こちらにお名前を。さ、こちらに印を。はい、確かに。えぇ、では、お客さん、お若いと見えますし、優に二、三十年の秋がありますね。それに最初のご利用となりまして…。はい、占めて、二十両で買い取らせていただきます。
――二十とは。また、たまげたもんだ。いやしかし、これでこれから春をもらうと思えばいい売り物をしたもんだ。さ、ありがたく受け取ろうじゃねえか。
――へ、毎度有難うございます。
さてそれからの八っつぁんの生活といえば見違えるものとなりました。溜め込んだ店賃を支払ってもまだ余る財がございますが、八っつぁんの商売も善くなっていきまして、ついには江戸でもひとかどのお人と目されるほどになり、ますます増えていくばかり。ミィ坊とも夫婦になりまして、仲も良好、付け入る隙もございません。このような人生の夏を迎えておりました。
さて、八っつぁんも不人情ではございません。このように人生が夏のように盛ったのもあの「春夏冬屋」あってのもの。なにか謝礼の品の一つも持たせなければ気に触ります。またあののれんと門をくぐります。
――やあ、店主。今はいいかな。
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