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これまで間違いが起きるのも面倒だとばかりに、αを相手にはしてこなかった颯だ。だが、何故か真壁には惹かれてしまったのである。
「二週間後。そこに来て」
颯はノートに住所を殴り書きすると、それを破いて真壁に渡した。電話番号もメールアドレスも、教えるつもりは一切ない。
束の間手渡された紙切れをを眺めていた真壁は、「必ず行く」とそう言って微笑んだ。
◇ ◆ ◇
二週間後。颯は朝から発情期の予兆に悩まされていた。これから一週間ほど続く発情期が、こんなものでは済まない事は颯が良く知っている。だがそれも、もう慣れている事だ。
玄関のチャイムが来訪者を知らせ、颯はインターホンのカメラを確認した。一度うっかりドアを開けてしまい、襲われそうになった事のある颯である。
発情期にΩの発する匂いは、αどころかβをも惹きつける。それは、マンションの中にいようとも。
小さな四角形に切り取られた画面の中に真壁の姿を確認して、颯は玄関へと迎い出た。
ドアを開けた瞬間、真壁の眉が驚いたように上がったのは、すでに颯の振りまく香りのせいだろうか。ボケっと立ったままの真壁の腕を、颯は引いた。
「入れよ」
「ああ、すまない…」
颯がリビングへと案内すれば、真壁はひとり暮らしなのかと問いかけた。
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