670人が本棚に入れています
本棚に追加
その日も颯は真壁と会っていた。穏やかな青空の下、構内にある噴水の縁に腰掛けて弁当を広げはじめる真壁に颯は口を開く。
それは、このところ颯と真壁が昼食を共にしている事を知った友人から聞かされた話。
「そう言えばお前さ、こんなところで俺に構ってて大丈夫なわけ? 許嫁いるって聞いたけど」
「ああ…やっぱり神楽の耳にも入ってたんだ?」
「やっぱαって俺らとは住む世界が違うよな」
颯が言えば、真壁は困ったように眉を垂れた。おずおずと差し出された真壁の手が、颯の手を掴む。
「許嫁は…親同士が勝手に決めた事だから…。俺は神楽がいい」
「ふぅん。どうでもいいけど、恨まれるのだけは御免だからな」
「神楽に迷惑はかけないよ。約束する」
真剣な眼差しで真壁の口から告げられる言葉は、何故か心地が良い。颯が少し調べただけで、αである真壁は大学内でも有名だったらしく、色々な噂が耳に飛び込んできた。
それはもうさすがαというだけの事はあって、狙っている相手が多いとか、恐れ多くて近付けないといったものまで。許嫁の話しも颯が知らないだけで、友人などは有名だと言っていたくらいである。
俗な話ではあるが、そんな男に尽くされて悪い気分はしない颯だ。
最初のコメントを投稿しよう!