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指を突き入れた瞬間に達した辰巳の精液を、フレデリックはすべて飲み干した。
崩れ落ちる辰巳の躰を受け止めて、自分と大差ないその躰をフレデリックは易々と持ち上げる。ソファの座面に膝をつかせて、前を寛げただけでフレデリックはそのまま後ろから貫いた。
背凭れにしがみついた辰巳の背が撓る。
「うあっ、…ぁ、気持ち良ッ、ぃ…ッ」
辰巳の躰を揺すり上げる度にフレデリックの腰元でベルトが小さく音を立てる。普段は聞こえないその音が、辰巳の耳朶を侵食した。自分が今、何をされているのかを嫌でも意識する。
フレデリックの手が、辰巳の上着を手荒に開いた。弾けたボタンが派手に飛び散って床へ落ちる。中のシャツまでも引き裂いて、上着ごと背中へと引き摺り下ろす。
辰巳の引き締まった上半身が露わになった。中途半端に脱がされた上着のせいで、辰巳の腕が自由を失う。
背後から回されたフレデリックの腕が辰巳の躰を引き寄せた。ぴったりと背中に張り付いたフレデリックの躰の熱さに、辰巳は肩を震わせる。布地を通してでもわかるその熱に、どれほどこの男が自分に欲情しているのかをまざまざと思い知る。
そう思った瞬間、ナカを抉られた辰巳の躰がびくりと跳ねた。吐精したわけでもないのに蕾が収縮し、肉の襞が痙攣してフレデリックを締め付ける。
どうして…と、そう思う間もなくぐるりとナカを熱の棒で掻き回されて、辰巳の口から悲鳴が漏れた。震えが、止まらなくなる。
「あぁああッ、あっ、ぁあッ!」
がくがくと躰を震わせる辰巳の躰をきつく抱き締めて、フレデリックが嗤う。
「ああ…気持ち良いね、カズオキ…? ナカが、欲しがってる」
「フレ…ッド、なっ…か…ッ、ひっ、嫌ッ…だ、俺ッ…っんだよ…これッ」
「ドライオーガズム…かな」
「ッそんな…んっ、知ら…あっ、ぁああっ」
ぼろりと、辰巳の眦から生理的な涙が落ちる。ドライに達したその感覚は、もちろん辰巳にとって初めての事だった。吐精の快感を上回るそれに翻弄され、自制できない感情が溢れ出る。
震える辰巳の躰を抱いたまま、フレデリックは下肢と、胸へとその腕を動かした。ベルトを鳴らしながら辰巳の胸の突起を弄り、雄芯を扱きあげてやる。腕の中で啼きながら背を撓らせる辰巳が、とてつもなく愛おしかった。
「あっ、ぁあッ、フレッ…ド…っ、駄目だ…ッ、おかしく…なるッ」
「なればいいよ…。僕の腕の中で…いくらでも啼けばいい」
耳元に低く囁きながら、フレデリックの動きが止まる事はない。とめどなく与えられる快感に、辰巳は何も考えられなくなる。ただひたすらに、気持ちが良い。
フレデリックが突き上げる度に、辰巳の口から反射的に嬌声が零れる。戒めてもいない辰巳の屹立はだらだらと涎を垂らすだけで、いつまでも最後を迎えようとはしなかった。幾度も後孔だけで絶頂を迎え、辰巳はその度に涙を流す。
ナカに熱い飛沫を注がれる度に、辰巳がすすり泣くような吐息を漏らした。項垂れた辰巳が浅い呼吸を繰り返す度に、フレデリックの腕の中で艶めかしく腹筋が隆起する。
やがて辰巳の喉から呼吸の音だけが聞こえるようになって、フレデリックはようやく自身をナカから引き抜いた。注ぎ込んだ白濁がボタボタと滴り落ちて二人の足元を汚す。
とうに意識を飛ばした辰巳の躰をソファに横たえる。躰が、熱かった。
身に着けたままだった衣服を脱ぎ捨ててフレデリックは煙草に火を点けた。僅かに眉間に皴を寄せたまま眠る辰巳を見下ろして、一度深く吸い込んだ煙を吐き出す。
咥え煙草のまま辰巳の躰に纏わりついた制服を剥ぎ取ると、フレデリックは見慣れた白い制服をその碧い瞳でまじまじと見つめた。
ボタンが取れて無残な姿になったそれを見て、思わず苦笑が漏れそうになる。フレデリック自身、あんなに興奮するとは思わなかった。
腕を下ろしたフレデリックは、辰巳がいつもするのと同じような仕草で頭を掻いた。
禁欲的なそれを犯したいをいう気持ちはあったけれど、それにしても熱くなり過ぎたと少しだけ反省する。辰巳は、いつだってフレデリックの心を乱す。フレデリックを、ただの獣に変えてしまう。
甘く、優しく抱いてみたいとそう思うのに、気付けば本能の赴くままに辰巳の美しい躰を貪っている。理性が働かなくなるという事を、フレデリックは辰巳を抱いて初めて知った。
フレデリックは、辰巳以外の誰を抱いても興奮を覚えたことがない。ただ己の下で理性を失っていく相手を眺めて愉しむだけだ。それで自分が最後を迎えなくとも、何の問題もなかった。
けれど辰巳だけは違うのだ。貪欲に、欲してしまう。ナカに注ぎ込んで、自分のものだとその躰に刻み込んでしまいたくなる。辰巳のすべてを欲してしまう。
辰巳が相手ならば、フレデリックはそのすべてを受け入れてしまう。これまで誰かに躰をひらく事などなかったというのに。
辰巳はフレデリックを変態だと罵るが、それは少しだけ違っていた。強欲なのだ。辰巳が自分のものであると確認したくなると同時に、フレデリックは自分が辰巳のものだと実感したくなる。
それは、フレデリックの確認行為。辰巳が殺気と色気を混同してしまうのは当然の事だ。フレデリックは、辰巳がすべてを自分に委ねているかどうかを確認しているのだから。完全に無防備な状態でしか得られないそれを、フレデリックは求めてしまう。
不意に唇に熱を感じて、フレデリックは我に返った。煙草が、随分と短くなっている。危うく火傷をしそうになって、フレデリックはやはり煙草は吸わない方がいいと、そう思った。
苦い煙を吸い込んでいると、どうしてかつまらない事を考えてしまう。
燃えるものもなくなって既に消えかけている煙草を長い指先で灰皿に押し付けると、フレデリックは再び辰巳を見た。僅かに寄っていた眉間の皴は、きれいさっぱりなくなっていた。
―――今度は僕が着てる時に襲ってみよう。ああでも、制服を着た辰巳に抱いてもらうのもいいなぁ…。
そんな事をつらつらと考えるフレデリックは、今しがたしたばかりの反省をすっかり忘れ去っていた。と言うより、辰巳も辰巳で最終的に気持ちが良ければ怒らないのである。お互いに、これ以上相性の良い相手はいなかった。肉体的にも体力的にも精神的にも、この二人の相性はいい。
フレデリックは片手に持ったままの白い制服を放り投げると、辰巳を抱え上げて浴室へと足を向けた。辰巳の躰を流してやるために。
その後、目を覚ました辰巳は『やっぱりお前の電話が鳴るとロクな事がない』と言ったとか言わなかったとか。
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