act.01 ”Similar things”

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 あっという間に部屋まで連行された辰巳は、その勢いのまま寝台に転がされた。大した体格差もないというのに、フレデリックのどこにそれだけの力があるのかいつも不思議に思う。  整えられた寝台の上に縫い付けられ、見下ろされて辰巳は困ったように呟いた。 「そんなに怒るなよフレッド。色気が倍増してんぞ」 「煽ったのは、辰巳だよ」 「そんじゃ、責任取って付き合うしかねぇなあ」  辰巳が首に腕を回して引き寄せるまでもなく、フレデリックが覆いかぶさってくる。衣服を身に着けたまま躰をまさぐられるその行為は、辰巳にとっては初めての事だった。いつもであれば、服など即座に脱ぎ捨てている。 「んっ……待、服…っ」 「安心して辰巳。僕が、ちゃんと脱がせてあげるよ」  上体を起こしたフレデリックに腕を引かれ、辰巳もまた同じように起き上がる。向かい合い首筋に噛みつき、時折口付けを交わしながら、フレデリックは宣言通り辰巳の服を一枚一枚剥いでいった。  いつもとは違うその流れに、辰巳は思わず羞恥に駆られる。  普段裸体を曝す事など気にした事もなかった筈なのに、こうして他人の手で肌を露わにさせられると、どうしてか気恥ずかしい。  ましてフレデリックは、スーツを纏ったままだ。 「っお前も脱げよ、フレッド」  辰巳の声が、低く掠れる。 「もちろん」  短く応え、フレデリックが目の前で上着を脱ぎ捨てる。ゆっくりと見せつけるように服を脱いでいく男の色気は壮絶だった。  徐々に露わになっていく引き締まった躰がやけに艶めかしい。思わず視線を彷徨わせる辰巳に、フレデリックがくすりと笑う。 「意識しちゃったかな? キミは本当に可愛いね」 「お前は本当に質が悪ぃな」 「可愛いって……言ったくせに」  トンッと軽く肩を押され、再び寝台の上に捕らわれる。首筋を彷徨っていたフレデリックの唇が胸元に下がり、辰巳は目を見開いた。小さな突起を口に含まれる。  辰巳は、そんな場所を弄られて感じた事はない。普段フレデリックに弄られたこともない。 「女じゃねぇ……んだぞ」 「知ってるよ。でも、気持ち良いのは好きだろう?」 「ッ……胸で…気持ち良くなった事は、一度もねぇよ」 「そう……かな?」  辰巳の胸の小さなしこりを食んだまま、見上げるフレデリックの口許が歪む。べろりと見せつけるように舌で突起を押し潰されて、悪寒にも似た感覚が辰巳の背筋を這い上がった。  フレデリックの舌によってもたらされるその感覚は、辰巳が初めて経験するものだ。  初めはこそばゆいような取るに足りない感覚が徐々に形を持ち始め、気付いた時には下肢に熱が集中していた。  片方を口に含まれ、片方をフレデリックの長い指が摘まむ。いつの間にか性感帯へと作り替えられた胸元を刺激される度に、辰巳の口からは嬌声が漏れた。 「ぅっ…、っく……ぁ」  辰巳の背が撓り、腹筋が艶めかしく隆起する。放置されたままにもかかわらず硬く勃ち上がった屹立から、とろりと雫が腹に滴った。  ――嘘……だろ…。  辰巳とて胸を弄られるのが初めてという訳ではない。女に舐められる事はあっても、気持ちよくなった事など一度もなかった。……それなのに。  どうしてか嬌声を堪えきれない程に気持ちが良い。 「あッ、……フレ…ッド、それ…ッいい」 「本当に、キミは素直で可愛いよ辰巳」  そう言ったフレデリックは、その長い脚で辰巳の下肢を擦り上げた。快感に仰け反る辰巳の首筋に食らいつきながら喉の奥で嗤い、低く囁く。 「欲しくなってくれたかい?」 「っならねぇ……訳がねぇだろ。…寄越せよ、早く…」  にこりと微笑んでフレデリックは軽々と辰巳の躰を反転させると、その膝を立てさせた。  高く上がった辰巳の後孔に舌を這わせる。もう幾度も受け入れる事に慣れた蕾はすぐに綻び、欲しがるように収縮を繰り返す。  フレデリックは満足そうにその様子を見遣ると、自身の熱棒をあてがった。腕の中で、辰巳の腰がピクリと反応する。  まるで期待するようなその動きにクスリと笑い、望み通り辰巳のナカへと推し挿った。 「っぁ、――…ッッ! フレッド……っ、気持ち良ッ」 「僕も、気持ちがいい……よ、辰巳」  ぐるりと内壁を掻き回し、辰巳の胸へと手を伸ばす。指先に触れた突起を軽く擦り上げ、捏ねるように押し潰せば辰巳の口からくぐもった嬌声が漏れた。 「ぅっ……ふっ、……ぁ…」  寝台に突っ伏して声を殺す辰巳の姿が、フレデリックの欲情をそそる。自身を抜き差しする度に辰巳の腰が引き締まり、蠢く媚肉がフレデリックの熱棒を締め付けた。  正直なところ、辰巳が胸でここまで感じるのはフレデリックにとっても嬉しい誤算である。それを思えば、嗤わずにはいられなかった。  指先を押し返すように硬く尖りきった粒を摘み上げる。少し引っ張るだけでもゆるりと頭を振る辰巳の姿がとてつもなく愛おしい。どうしてこう、この男はフレデリックを夢中にさせるのが上手いのか。  無理をさせたくないと思いはするものの、反面泣き叫ばせたい欲求が鬩ぎ合う。辰巳に低く掠れた声でもうやめてくれと懇願されればされるほど、フレデリックはもっと啼かせたくなってしまう。自分を、抑えきれなくなる。 「っは…やく……ッ、動け……フレ…ッド…」  ――ああ…堪らない。これで、止まれる訳がない。  フレデリックに欲望の箍を外させるのは、いつだって辰巳の方だ。  自ら胸を押し付けるように背を撓らせる辰巳の躰を、フレデリックは易々と抱え上げた。自重で奥を抉られ呻きをあげる辰巳の手を壁につかせて、フレデリックはクッと喉の奥で小さく嗤う。  本格的に捕食を開始したフレデリックの突き上げに、塞ぐもののなくなった辰巳の口から悲鳴にも似た嬌声が迸る。  吐き出してもなお萎える気配のない雄芯を引き抜くことなく、フレデリックは思うさま辰巳の躰を貪った。  乱れに乱れきった寝台の上に躰を横たえて、辰巳はぼんやりと天井を見上げた。そういえば前にも一度こんな事があったのを思い出す。  ――あー……あん時ゃうつ伏せだったっけか…。  今と同じように、フレデリックに抱き潰されて躰を起こす体力もなくシャワーの音を聞いていた記憶がある。そう遠くない記憶だ。  自分たちはどうしてこう、起き上がる気力もなくなるほど励んでしまうのか……と、そんなくだらない事を考えたところで無駄だった。  そんなものは気持ちが良いからに決まっている。  三十八という年齢の割に、辰巳もフレデリックも無駄に体力を持て余している上、性欲も有り余っているから手に負えない。挙句とめる者さえ存在しない。  辰巳は大きく息を吸い込んでから腹筋に力を入れて上体を起こす。寝台の上に胡坐をかけば、どろりとナカから滴る体液に辰巳は思わず顔を顰めた。 「ッ……気持ち悪ぃ…」  顔を顰めて一言そう呟く。辰巳は素足のまま床に降り立った。  ちらりと今まで自分が身を置いていた寝台を見やって溜め息を吐くと、ガシガシと頭を掻きながら辰巳のナカに注ぎ込んだ張本人がいるであろう浴室へと足を向けた。  予想通り中から水音が聞こえて、声を掛けながらドアを開ける。 「入るぞ」  立ったまま髪を洗いながらフレデリックがちらりと振り返った。 「大丈夫かい?」  余分な気遣いを含まないその声までもが再現されて、思わず辰巳は苦笑を漏らす。相変わらず目の前にある躰は美しい筋肉を纏っていて、嫉妬してしまいそうなほど綺麗なものだ。 「大丈夫じゃねぇよ。ちょっとは加減しろ」 「僕を煽るからいけない」 「俺のせいだって言うのかよ?」 「無論だね。辰巳にあんな声で啼かれたら、抑えきれるはずがない」  言いながら髪を流し終えたフレデリックに腕を引かれて、辰巳は反論する間もなく降り注ぐシャワーの下に引きずり込まれた。そのまま後ろから抱き締められる。この男はあれだけ辰巳を攻め立てておきながら、どうやらまだ足りないらしい。  右肩に顎を乗せたフレデリックが、首筋に噛みつきながら低く囁く。 「どれだけ辰巳が魅力的か、キミは知らなすぎるよ」  フレデリックの言い方は、まるで他人の事を言っているように辰巳には聞こえた。  左腕で腰をホールドされたまま右手で頤を捉えられる。長い指先が喉元に滑り落ちて、擽るように動いた。そのまま首でも絞められそうな雰囲気だ。  フレデリックを纏わりつかせたまま、辰巳は煽るように上を向いて首元を仰け反らせてやった。熱い飛沫を顔に浴びながら辰巳が喉を震わせる。  どうにも、抗えないから始末に負えない。 「魅力的ねぇ……。どっちがだよ、ったく」  自分などより余程良い躰をしておいて何をぬかすかと、辰巳は嗤う。現に今も、ぴたりと背中についたフレデリックの胸を離すことが出来ないでいる。腰を捉える腕も、指先で喉元をまさぐっている腕も、辰巳の力では振り解くことが出来ないというのに。 「俺は、お前には敵わねぇよ」  人の躰を拘束しておきながら今にも絞め殺しそうな殺気を出しておいて、そのくせ色気があるものだから手に負えない。フレデリックがその気になれば辰巳など何の抵抗も出来ずに殺されそうだ。  フレデリックが、首筋に長い指を這わせながら辰巳に問う。 「僕が怖いかい? 辰巳」 「ああ、怖ぇな」 「本当にキミは素直だねぇ」  クスクスと笑いながら腕を解かれ、辰巳は小さく息を吐いた。 「お前は本当に心臓に悪ぃ男だよ」 「たまに、不安になるんだ」 「勘弁してくれフレッド。不安になる度に殺気立たれたんじゃ、俺の身がもたねぇよ。色気出すか殺気出すかどっちかにしろよお前は……」 「死ぬかもしれないと思うと興奮するのは、動物の本能だよ」  そう言ってフレデリックは辰巳を浴槽の縁に座らせると、脚の間に膝をついた。衒いもなく辰巳の中心で硬く勃ちあがったものを飲み込んでいく。 「わざわざおっかねぇ思いしなくっても、枯れちゃいねぇんだから勘弁しろよ」 「んっふ。…嫌いじゃないくせに……」 「それは、お前がだろぅ?」  咥えながら見上げるフレデリックの金糸の髪に無骨な指を差し込んで無造作に押し下げる。 「ッぐ…、ぁ……ぅっ」 「そんなに欲しけりゃ奥まで飲み込ませてやるよ」  突然に無理矢理喉の奥まで突き入れられて、フレデリックの目に涙が浮かぶ。太腿に添えられた長い指にギリギリと力が入って、辰巳はくつくつと喉を鳴らした。息が出来ないように、自身の屹立でフレデリックの口腔を塞いでやる。  やがて太腿を掴むフレデリックの指先から力が抜けて抵抗する気力もなくなった頃、ようやく金糸の髪を掴んでいた手を辰巳は引いた。  硬いままの屹立が引き抜かれ、両手をついて喘ぐように空気を貪るフレデリックをじっと見下ろす。 「興奮したかよ?」 「っ…ぅ、…ゲホッ……最高にッ、ね……ぅっ」 「ハハッ、お前には本当に敵わねぇな。欲しけりゃ壁に手をつけよ。くれてやんぜ?」  辰巳が嗤えば浴槽の縁に手をついてフレデリックが立ち上がる。壁に両手をつくフレデリックの背中は、惚れ惚れする程に美しかった。  背を向けたまま、フレデリックが掠れた声で強請る。 「欲しい……、辰巳」  ゆらりと立ち上がり、解しもせずに辰巳はフレデリックの後孔を貫いた。反射的に逃げを打つフレデリックの腰を掴んで無遠慮に突き上げる。唐突に入り込んだ異物を排斥しようとするする抵抗は、僅かなものだ。 「んぐッ、――……ッ!! ァ……はッ、ぅ…っく」  硬い壁に爪を突き立てて、フレデリックの全身が硬直する。脚の間からボタボタと滴る体液に辰巳は小さく嗤った。  フレデリックが詰めていた息を吐く。筋肉が隆起する度に背骨に沿って深く窪む谷間が辰巳の欲情をそそった。 「アッ……っぅ、ンッ」  ツ…と、背中を辰巳の武骨な指先が滑る。たったそれだけでフレデリックは吐息を漏らした。
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