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世界には、多くの美しい詩がある。
国を救った亡国の勇者。
姫君との約束を命をかけて果たした騎士。
世界の為に命を費やした賢者。
貧しい者たちの希望として生きた大罪人の盗賊。
それらは、人々の心に残るモノとして語り継がれ、彼らの生きざまは歌声の中に優しく閉じ込められた。彼らが生きた記憶はなくとも、その記録に穏やかな曲調を込めることにより、荒々しく生々しい伝説として、人々の勇気となった。
だからだろう。
それを聞いた者たちは皆、笑顔になる。
「ねぇねぇ、もう一度あれを歌って!」
少女が一人、町の片隅に座る男に話しかけた。
男はボロボロのマントを羽織っており、これまた日に焼けた薄いフードを目深く被っている。そんな格好から覗く血色の良い腕と、子供っぽく笑う口元だけが彼を年齢を想像させた。
「なんだお嬢ちゃん。今度は金を取るって言っただろ?」
男は、そう言ってフードを上げた。髪は黒く、瞳は吸い込まれるような碧眼をしていた。
「うん。だから、はい」
嬉しそうに少女は手のひらを広げる。そこには、一枚の銅貨。それは確かに価値ある硬貨だった。
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