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その結婚式会場に参加した誰もが「えっ?」と驚いた。
午後2時から始まった結婚式。BGM曲と共に登場したのは
新郎の板垣マサトと新婦の高橋アヤ、それにマサトの母親の
板垣トモ子の3人だったからだ。
おまけに式場正面のひな壇の左側に新郎が座り、右側には何故か
マサトの母親が座り、新婦の高橋アヤは高橋家の円卓の席に
座ったから、会場が微妙な空気に包まれた。
「ちょっと何で? 何で新婦の席にマサトのお母さんが座ってんの?」
「さあ……」
「アイツ、昔からお母さん大好きだとは知ってたけどさ……」
マサトの大学サークル仲間として式に呼ばれたユカリとトモヒサとコウジが
ヒソヒソ話す。会場全体がザワついていた。
「それでは、板垣家と高橋家の結婚式、晴れやかにスタートです!」
司会の女性から特に説明も無く式が進行して行く。マサトもトモ子もアヤも
みんな笑顔で幸せそうだ。
式のクライマックスではマサトとアヤからそれぞれの両親に花束が渡され、
アヤが涙ながらに自分の両親へ感動の手紙を読んだ。
だが、それぞれが席に戻ると、マサトの母親はやっぱりひな壇の席に座る。
結婚式がお開きになると、人々は首を傾げながら帰って行った。
サークル仲間の3人はその後近くの喫茶店に移動した。席に着いた途端
「変な結婚式だったな~。」
「ああ、結局お色直しもマサトのお母さんが衣装変わったしな」
「ちょっと信じらんないよね。アタシが新婦だったら絶対耐えられない!」
「マサトのお母さんのインパクトが強過ぎて、新婦の顔が思い出せないや」
「確かにオレも。なんか笑ってたのは覚えてるけど」
「そう言えば笑ってたよね。あれで怒らないなんて、よっぽど心の広い人
なんだろうね」
一度口火を切ると、もう止まらなかった。
一方、結婚式場ではプランナーの松嶋ヒカリが高橋アヤと話していた。
「本日はおめでとう御座います。あの、本当に宜しかったんですか?
その、普通は結婚式って御新婦様が主役なものですから……」
ヒカリが申し訳無さそうに言うと、
「全然構いませんよ。マサトさんもお母さんも幸せそうでしたし。
私はお母さんのことが大好きなマサトさんが好きですから」
アヤはニッコリ微笑む。
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