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「それを聞いて私も安堵しました。御新郎様と新婚旅行のご予定は?
流石にお母様は御一緒されないですよね?」
「アハハハハ、イタリアには二人で行きますよ。これから私が旅行代理店に
マサトさんの銀行カードで代金を振り込みに行くんです」
「えっ? 御二人で一緒に御準備されないんですか?」
ヒカリが驚くと
「マサトさんには大好きなお母様の側にいてもらって、私が一人でやった方が
色々とスムーズですから」
アヤはバッグからマサトの銀行カードを出すと「ほら」と笑顔で見せた。
自宅に帰る電車の中で松嶋ヒカリは今日の風変わりな結婚式を思い出していた。
最初は新郎新婦がひな壇に座るオーソドックスな結婚式になる予定だった。
だが、息子を溺愛するトモ子がことごとく口を挟んで来た。
ぶっちゃけた話、よくある話だ。愛する我が子の愛情が自分とは別の若い女性に
注がれる事への「嫉妬」。トモ子の場合はそれが特に強かった。
参加客の人数、席順、お祝いのスピーチの人選、料理メニュー……。
口を挟もうとすれば無限に挟める。嫁姑問題は最初が肝心なのだが、幼い頃から
母親が大好きだったマサトはすべてトモ子の意見を支持したのだった。
嫉妬で暴走するトモ子に対して、高橋アヤは義母の正面には立たなかった。
それどころか、
「いっその事、お義母さんがひな壇にお座りになったら如何でしょう?
マサトさんも親孝行になりますし、お色直しもお義母さんがぜひ!」
逆提案してヒカリを仰天させた。
そしてアヤの申し出に「あら、それは良いわね」とトモ子がアッサリ応じた結果、
何とも風変わりな結婚式へと変貌を遂げたのだった。
「アタシも将来結婚する時って、彼氏のお義母さんとうまく折り合い付けなきゃ
ならないのか。アヤさんみたいには絶対なれないよなぁ……」
電車の窓の外の流れる風景を眺めながら、ヒカリは小さな溜め息を付いた。
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