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ばったりと依吹のお姉さんに道で会ったのは留学に必要な英語資格試験を受けた帰りだった。
久しぶりに見る依吹のお姉さんは以前よりもっと綺麗になったと思っていたら、「一凛ちゃん綺麗になったわね」と先に言われた。
男物のごつい黒い傘をさす依吹のお姉さんの横顔をそっと見つめる。
この人は本当に依吹のお母さんなんだろうか。
わたしの歳の時にはすでに依吹を産んだというのは本当なのだろうか。
いや、やっぱり信じられない。
颯太が言ったことはすべて嘘だ。
もしあの話が本当で、依吹のお姉さんはお母さんで、そして強姦されたのだとしたら。
どうしても依吹のお姉さんの横顔と颯太の話が重ならない。
目の前にいるのは昔から一凛が知っている『依吹のお姉さん』で『強姦された依吹のお母さん』ではない。
男物の傘をしっかりと握る白くて細い指の形が依吹と似ている。
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