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安治の両親は古風で厳格な人たちで、笑うということがほとんどなかった。
兄弟の三番目にして待望の長男として生まれた安治は、裕福な家庭で溺愛されて育ったから、それなりに真面目で保守的で素直な性格に成長した。少なくとも反抗期までは。
どちらかといえば内気で人見知りだった子ども時代、周りは彼をそんな風に見てくれなかった。
安治は小学校に入ったときから、常にほかの子たちより頭一つ分大きかった。加えて、子どもらしい顔立ちではない。輪郭は面長で、眉も目もやや吊り上がり気味、鼻は高く細く、唇は薄い。そして笑わないのだから、大人びて冷たく見られた。
安治はじきに、自分の容姿が「怖い」と噂されていることを知った。
それでひどく傷ついたかといえば、そうでもない。幸い数人の仲の良い友だちに囲まれて、学校生活は順調だった。ただ、自分の顔は可愛げがなく、冷たく見られるのだと自覚した。
中学校の一時期、やけに女の子たちにちやほやされたことがある。かっこいいと噂され、同級生数人と見知らぬ女生徒からも告白を受けた。
よくはわからないが、その時期の安治はかっこよかったらしい。大学に入ってから付き合った彼女に当時の写真を見せると、「へー、かっこいい」と他人事のように言われた。残念ながら、そのときがピークだったようだ。
モテはしたものの、急に軟派になれはしない。嬉しさよりも戸惑いのほうが強かった。
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