4人が本棚に入れています
本棚に追加
「おりょうよ」
と、ほしこ所長が女言葉で紹介する。
「おりょう――ちゃん?」
「ええ。本社で優秀な働きをしてくれてるんだけど、特別にあなたの担当にもついてもらえることになったの。わからないことがあれば何でも彼女に相談してちょうだい」
返す言葉もない安治に、おりょうも無言で、戸惑いだか恥じらいだかを想像させる笑顔を浮かべて見せた。
二人はそろって部屋に戻った。
おりょうは物静かな娘だった。動きも楚々としている。白いブラウスに臙脂の膝丈スカートというおとなしい格好が似つかわしい。あまりに控えめなので、ビデオ女優の過去をごまかそうとしているようにも見えた。
安治は彼女がすず香なのかを問わなかった。代わりに確信していた。声、話し方、ちょっとしたしぐさがすず香そのものでしかない。
おりょうは紙袋を持参していた。
「お昼はこちらで」
と言葉少なに差し出す。サンドイッチだった。具材はポテトサラダ、カツ、オムレツ、コールスロー、ローストビーフと手が込んでいる。水筒にポトフも持参していた。
「作ったの?」
感激するなり驚くなりで安治が言っても、おりょうは曖昧な笑みを返すだけだった。湯気の立つ水筒の中身をお椀に移して差し出す。早くも妻の行動だ。
最初のコメントを投稿しよう!