成長過程

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安治はそのころ、半年ほど片思いをしている相手がいた。けれど告白もできないまま、一番押しの強かった女の子を最初の恋人にしてしまった。その恋人とは大して関係も深まらず、卒業と同時に自然消滅した。 高校ではそれほどモテなかったが、見た目のかわいい同級生から告白されて付き合いだした。半年後に初めて性交渉をした。お互い実家暮らしで、ラブホテルを利用しようと考えるほど積極的ではなかったから、関係を持つのは難しかった。結局一年を越える交際で三回しかできなかった。彼女が性的な喜びに目覚めた風もなかった。 安治は性に関して真面目だったので、きちんと避妊をしたし、恋人以外との関係を求めたこともない。ただ、周りにはそう見えなかった。身長が百八十を超えるといよいよ注目を浴びるようになり、そのなかには女性からの好意的な眼差しも含まれていた。 顔立ちこそ美形ではないという以外、安治は容姿に恵まれていた。単に背が高いだけでなく、小さいうちから姿勢よく躾けられていたおかげで整った体形をしている。黒いストレートヘアに白い歯、きめこまかくしっとりした肌に繊細な手指、そして低い声が、出会う女性の何割かをときめかせた。 青年期に入っても照れ屋で奥手な彼は、親しくない女の子に笑顔を向けることができなかった。どうにかして微笑むことはあっても、それは見る側からすると、薄い唇に浮かべた酷薄な表情に取れた。キザ、クール、ドS。そんなのが彼に与えられた印象だった。子どものころの「怖い」と根本的には変わらない。
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