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申し分のない昼食をいただきつつ、安治はさりげなく観察する。線の細い体、端正な顔、わざとらしいほど完璧に女性的な髪型としぐさ――。どこか物寂し気にさえ見える落ち着いた表情からは、この状況を楽しんでいるのか憎んでいるのかの判断もつかない。
――世話係?
言われた言葉を思い出して、どうすべきなのかを考える。夜のことだ。
一緒に暮らすということは、一緒に寝るということが暗に含意されているのだろう。
しかし安治には人を道具のように扱う発想がない。一緒に寝るにはまず口説かねばならず、そのためには好きにならなくてはならない。
すず香のことは好きだが、おりょうとは初対面だ。思いこみとかけ離れているところがあるかもしれない。ビデオのなかでは誰とでも抱き合うのが好きなように見せていたが、演技をしている部分もあるだろう、女優なのだから。
おりょうがちらと視線を合わせる。安治は慌てて目を逸らす。いやらしく思われたら、いい関係は築けまい。ビデオを観て、体目当てで選んだなどと思われては不本意だ。
午後、二人は物置として使っていた狭い部屋を片付けて空けた。引っ越しの荷物は夕方届いた。
運び込まれる家具に安治は唖然とする。毛足の長い純白のラグに、猫足のチェスト、ローテーブル、ドレッサー、ベッド、そしてシャンデリア。いずれも小ぶりとはいえ立派なお姫様の部屋だ。
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