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手伝いの人が去ったあとで、おりょうはベッドとラグの位置を気にし始めた。
「安治さん、ラグを少し引っ張っていただけますか。私がベッドを持ち上げますので」
無茶を言う――と思う安治の前で、おりょうは軽々とベッドを持ち上げた。両手で端をつかみ、全体を抱え上げたのだ。
「――力持ちだね」
目を丸くする安治に、おりょうは「はい」と軽く頷くだけだった。
夕食はおりょうがキッチンにあったもので、スパゲティとチキンソテーと野菜たっぷりのスープを作ってくれた。率先して動く姿に、安治は感激と緊張を覚える。
安治の母は、家族の食事を作るのは自分の使命と思っているかのようで、きっちり毎回用意した。買った弁当を食べるときでも、お新香と味噌汁くらいは必ず作ったものを出す。一方で父はそれを当然と思っていて、自分では台所に入ることすらしない。
それを当たり前の男女関係だと思っていた安治は、大学時代の彼女と半同棲状態になったときに苦労した。彼女は料理が苦手で、ましてや他人にわざわざ作ってあげる気になどならない、というタイプだったのだ。
それでも最初は無理をして作ってくれていた。片付けもしてくれるので任せていたら、そのうちフォークが飛んできた。自分ばかりが働くのは不公平だ、と怒りだしたのだ。安治は自分の親が亭主関白という種類の夫婦で、今時にはそぐわないことを知った。
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